音楽をやっていて、すごく大切だと思うことは、時代に合ったものを作る、時代を超えた普遍的な良さを出す、そして「自分の個性を出していく」ことだと思います。
自分のような、J-POPの作曲の仕事の場合は、大抵、誰かアーティストが歌う楽曲を作ることが多いので、アーティストさんの良さを生かしたものを作ることが大前提なのですが、その中にも、クリエイター自身の個性を入れていくことも同じくらい大切になってきます。そうでなければ、誰が作曲しても同じになってしまうので。「代わりのいない自分」になっていくことが、永遠の課題といってもいいでしょう。
最近、自分が書いた楽曲でいえば、フィロソフィーのダンス さんの「ダブル・スタンダード」ですが、先日までアニメ「魔法科高校の優等生」EDとして使用されていたこともあり、おかげさまで好評をいただくことが多く、大変うれしく思っています。この曲は、様々な形容詞を付けていただいておりまして、ある時はファンキーな、ある時はアシッド・ジャズな、そしてある時は、ソウル、UKハウス、ディスコ、フュージョン、ジャズ、シティポップ、20年前に流行った曲調、深夜のFM放送で流れそう 笑 etc… いろんなジャンルを出していただくことが多いです。それはある部分、自分がとても望むところでした。(でも、一番うれしいことは、「歌詞が良い」と多くの方に言っていただけたことです。歌詞が良いというのは、楽曲が認めてもらっているということなので)
僕の場合は、一番自分に馴染んでいる音楽の一つに、スムース・ジャズがあります。僕が一番好きなアーティストの一人が、ピアニストのDavid Benoit さんなのですが、この方がスムース・ジャズの先駆者でもあるからです。(Benoit さん自身はスムーズ・ジャズに限らず、ストレート・アヘッドなジャズ、クラシック寄りの交響曲、R&B、AOR、アニメのサントラetc… 本当にありとあらゆる音楽を手掛けています。吉田美和さんのツアーに参加されたこともあるのですよ!)
なので、こういうスタイルの楽曲を作る時は、そこをベースにアイデアを派生させていることが多いです。なので、たとえばファンクテイストな楽曲を作る時も、いわゆるブラックなゴリゴリのファンク、というより、自然とスムージーな、美しさが前面に出る感じの楽曲になることが多いかもしれません。どちらが良いというよりも、それが自分の個性だと思っていて、発注に合わせつつ、そこをアピールすることを大切にしています。(もちろん、ゴリゴリのファンクを要求されれば、そう作っていきます)
そして、個性なのですが、仕事レベルの場合は結構シビアなもので、「自分はここが売りなんです!」と思っていても、クライアントやリスナーがそれを認めてくれなければ、そこはセールスポイントにはならないのです。曲が採用されるだけでもかなり大変な世界なのですが、その先の「人に自分の個性を認めてもらう」ということになると、輪をかけて大変です。認められるまで根気良くその方向性でいくか、臨機応変にスタイルを変えていくか、人によってその方法も結果としてどう出るかも様々です。
しかし、自分では気が付いていなくても、思いがけない評価をいただくこともあるのです。自分の場合は、2014年に、アイドルマスター ミリオンライブ! に提供した、「瞳の中のシリウス」という曲がそうでした。
この曲は、最初に書いてから数年間、全く日の目を見ることはなく、僕の中では、「もうこの曲は世に出ることはないかな」と思っていたのですが、ある日突然、採用が決まりました。
しかしこの曲に関しては、それまで「もっとインパクトのある曲を」と言われることも多かったので、採用が決定しても、嬉しいは嬉しいのですが、「ああ、まあそういう曲なのかなあ」という気持ちが心の片隅にあって、自分では決して悪い曲ではないとは思いつつも、そこまで期待はしないまま、リリースを迎えました。(ただ、本テイクのアレンジがDr.Lilcom さんとの共作ということも手伝い、本当に素晴らしい出来栄えのものになっていました)
それからしばらく、あまり気に留めていなかったのですが、各方面で、この曲を、メロディの美しさだったりピアノリフの妙だったり、ファンの方に高く評価していただいているのを目にすることが増えてきて、「え、この曲ってそんなに良かったんだ」と少しずつ思えるようになりました。いったん、自分の中でプラスの評価ができると、どんどん自信が持てるようになり、今では、自分の代表曲を5つ言えと言われたら、必ずこの曲はその中に入れるでしょう。
この曲は、あるJ-R&Bアーティストの3拍子のバラードを、リファレンスにして書いた曲なのですが、やはり大好きなDavid Benoit さんの、今度はややクラシカルな面の影響が、かなり出ているかもしれません。だから、いわゆるR&B以外の要素が自然にブレンドされていて、そういう意味ではやはりこの曲も、自分の個性がちゃんと入っている曲です。そこに声優さんの美しい歌が入って、、完成品を聴いたファンの方々は、R&Bの印象はほとんど受けていないのではないでしょうか 笑
「瞳の中のシリウス」が「ダブル・スタンダード」とは違うのは、最初この曲を良さを、あまり自分の中で実感できていなかったのが、自分の知らない場所でリスナーの方々が良さに気付いてくださって、それを受けて、自分でも自信を持つことができた楽曲、というところです。
個性は、自分から能動的に出して人に認めてもらう場合もあれば、自分では気付いていないけれど、聴いた人に少しづつ気付いていただける場合がある、ということです。どちらの場合も、決めるのは聴いた人、です。かなりシビアなのですが、人が自分の個性を教えてくれることもある、それがプロの音楽の世界だと思っています。
そして、一つの好きなものを極めて、それを個性として認めてもらえたら、それは本当に素晴らしいのですが、自分の場合はなかなか難しい場合が多いです。その分野でもっとすごい人がいたら、それは際立った個性にならないからです。ベテラン、新進気鋭に関わらず、本当にすごい才能を持っている人がたくさんいる世界なので。
でも、一つでは無理でも、そこに何か一つ、二つを混ぜていくことを考えれば、いろんな可能性が出てきます。同じようなブレンドの仕方をしていないものを考えていくのです。もちろん、人に親しまれるものであることが大切です。この、何かと何かを組み合わせる、というところに、自分の音楽のオリジナリティ、個性を広げていくヒントがたくさん詰まっている、そう僕は感じています。
また、今までにない、特に何々というジャンルを感じさせない、全く新しい音を出していく、というのも、究極の個性かもしれません。このやり方で聴いた人の共感を得られるものを作れたら、それは素晴らしいことです。これは、基本の部分がとてもしっかりしているか、もしくは全く基本を知らないからこそできるのことなのか、いつもとても興味深く思います。
自分の場合ですが、正直なところ、今回上げた2曲とは正反対の、たとえば、中島美嘉さんの「雪の華」や、CHAGE and ASKAさんの「男と女」のような、本当に正統派歌謡曲のバラードでもヒットを書きたいな、という気持ちも、少し持っています 笑 そういう考え方を持つことも、自分の個性に繋がるかもしれません。
「自分は個性がないのかも、自分の個性が何か分からない」と思っている方は、、もしかしたら、曲を聴いた人がその答えを教えてくれるかもしれません!
___