CHAGE and ASKA の「PRIDE」はなぜ名曲なのか? その2

さて前回、CHAGE and ASKA「PRIDE」(作詞・作曲:飛鳥涼)という曲のどこがすごいのか、どこが素晴らしくて、多くのファンの方々に名曲として親しまれているのか、というところを、あくまで僕自身が思っていることでありますが、メロディとコードの見地から、数カ所のポイントに絞って、書いていきましたが、やはりとても深い楽曲なので、1回では収まりませんでした。新たに仕切り直して、残りのポイントについて書こうと思います。

◎ 大サビで畳み掛け、一気に感動のフィナーレへ

「PRIDE」といえば、普通に1コーラスだけでも十分名曲なのですが、やはり曲全体の構成に、ひじょうに魅力があると思います。前回も少し書きましたが、イントロ、1コーラス後の間奏、全て歌い終わった後のエンディング部分、全て違う展開を持ってきているにもかかわらず、ちゃんとまとまりがあり尚且つスケールの大きな世界観を表現できているのは、さすがとしかいいようがありません。

そして、やはりこの曲は、2コーラス目が終わってからラストサビにつなぐまでの、大サビの持つ役割がひじょうに大きいと思います。元々100点の曲を、150点にするような感じでしょうか?

それでは、大サビ9小節の歌詞とコードをみていきましょう!

※ ここでは、1コーラス分をCメジャー・キーに変換して説明していきます。CHAGE and ASKA 時代のオリジナル・キーが Ebメジャー・キー、ASKAさんのシングル・バージョンが Dメジャー・キーです。

  プライド 僕は歩く おだやかな|愛で|

  Ab|Db/Ab|Eb/Ab|Ab|

  白いまどべに両手をひろげた

  Am|Bm7(b5)|Am/C|Dm7 – F/G|G7sus4 – G7sus4・G7 ~

となります。

キーで言えば、前半4小節がAbメジャー・キー、後半4小節がCメジャー・キーとなります。

大サビ直前のサビが、Cメジャー・キーのドミナント(Dm7/G)で終わりますので、大サビに入った瞬間に、短6度上(長3度下)のAbメジャー・キーに転調することになりますが、、、この転調の仕方、何かの曲に似ているのではないでしょうか?

そう、、、これは、ASKAさんソロの代表曲、はじまりはいつも雨」の、2コーラス終了後の間奏への転調の仕方と、ほぼ同じなのです! どうりで名曲の香りがする筈です。ASKAさんは、この長3度単位で上下させる転調を、よく使われている気がしまして、他にも「モナリザの背中よりも」のBメロなどでも、長3度転調を使っています。ポップスではありそうであまりみかけない、ハッとする転調です。

そして、後半の5小節目からは、Cメジャー・キー、すなわち元のキーに戻ります。厳密に言えば、Aマイナー・キーですが、使っているスケールの構成音が同じなので、Cメジャー・キーと解釈してもいいかなと思います。Abメジャー・キーから長3度上のキーに転調することになるので、ここもかなりハッとする部分です。

すごいなと思うのは、意識せずに聴いていると、このあと大サビからラストサビに戻る時も、また大きな転調をしているように錯覚するのですが、実は「構成音が違うスケールのキーへの転調」というのは、最初の4小節のみで、5小節目には既に元のキーに戻っていて、サビにいく際はAマイナー・キーから平行調のCメジャー・キーになっているだけなのです。これも転調といえば転調ですが。

おそらく、5小節目からは、メロディも含めてマイナー・キーのニュアンスがかなり強く聴こえている、というのがあるのかもしれませんが、たとえば、ここのコード進行で、E7のような「平行調のメジャー・キーに含まれない音を構成音に持ったコード」が使われているかといえば、全く使われていません。(※ もし6小節目のコードが Bdimだったら使用していることになるので私の耳コピ違いになります、その時はどうもすみません)

にも関わらず、平行調の関係で、マイナー・キーと次のサビのメジャー・キーで、ここまで雰囲気をガラッと変えることができる、というのは、もうこれはセンスの塊と言っていいのかもしれません。

大サビは、バックで鳴っているストリングスの分散和音もあいまって、全体的にクラシックというか、まるでバッハの平均律クラヴィーア曲集にあるような美しさに満ち溢れています。前半は希望、後半は不安からまた希望、という印象を持ちますが、この大サビがあるからこそ、次のラストサビで一気に感情が解放されるのだと思います。とにかく、希望から不安、不安から希望に移行する時のインパクトが半端ではありません。

こうやって紆余曲折を経て、ラストで、感動要素が満載のサビに再び戻るのですが、ラストサビは2回繰り返されます。前回書きました、このサビの感動部分は、1コーラスでサビの前半、後半の2箇所出てくるので、フルコーラスで合計2×4 = 8回出てきます。それは確かに聴いた人は号泣したくなるでしょう 笑

◎ サビの後半部分

あと、ここに来てもう一つ素晴らしいことに気付きました。「PRIDE」のサビは、実は後半の5~8小節目の4小節部分、特に終わり方がとても秀逸なのです。歌詞とコード進行をみてみましょう。

  心の鍵を壊されても失くせないものがある~ プライド~

  C – F/A|G7(b9,13) – C・G/B|Am – D7/A|Dm7 – Dm7/G|C ~

※ 区切りの良いところを考慮して、5~9小節目まで書いております。

となります。5・6小節目は、前回お話ししたのと全く同じ手法が使われていますが、その次の7小節目以降は、

通常の感性の人ならきっと、

  Am – D7|F/G – G7|C ~

とするでしょう。7小節目の2つ目のコードを、ベース音をそのままにして、D7/A にするセンスはすごいです。おそらく、次のDm7を使いやすくして、8小節目でルート音を動かすことで間延びさせないためだと思います。ここは聴いていると、ひじょうにスムーズに聴こえる箇所ですが、なかなか思い付くことではありません。そして、ここも例に漏れず、聴き手の感動を大きくしている部分です。

以上、前回から、CHAGE and ASKA、ASKAさんの「PRIDE」が名曲である理由として、コード進行とメロディの要所を数カ所だけ書いていきました。まだまだ書き足りない位、「PRIDE」には素晴らしい要素が詰まっているのですが、あまりにも長くなりそうですので、この辺りで終わらせていただきます。(全てCメジャー・キーに直しての説明でしたので、こんがらがる箇所も多かったかもしれません、失礼致しました)

あらためて思ったのは、ASKAさんは、本当にちょっとしたような小さなこと、細かいことを、すごく大切に作曲されていて、その積み重ねによって、「名曲」と「普通に良い曲」との、大きな違いを生み出している、ということです。

僕はよく個性について考えるのですが、派手なこと、あきらかに人と違うことをやる、というのもとても大切ですが、一見、普通に見えることこそ、細部に渡り意識することが大事で、それによって、他にない大きな個性を出していくことは十分可能なんだ、と思います。所作が大切、「PRIDE」はまさにそれを体現している、素晴らしい名曲です。

そして、もしこれを読まれた方が、「PRIDE」という楽曲や、CHAGE and ASKA、ASKAさんやCHAGEさんの音楽に興味を持って聴いていただけるようなことがあれば、とてもうれしく思います。

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