CHAGE and ASKA の「PRIDE」はなぜ名曲なのか? その1

CHAGE and ASKA さんといえば、いうまでもなく、日本のポップス界に大きな貢献をしたアーティストの1組に入るのですが、ただ単に歌が上手い、売上がすごい、キャラクターが良い、というだけでなく、「楽曲の良さ」が、ものすごく大きなポイントを占めていると思います。

そんな中でも、ファンの間で、絶対的な人気を誇る楽曲があります。1989年にリリースされたアルバムのリード曲であり、同様のタイトルでもある、「PRIDE」(作詞・作曲:飛鳥涼)という楽曲です。

そして、この「PRIDE」、つい先日10/15(金)に、ASKAさんがセルフ・カバーして、シングルとしてリリースされました。長年の歳月をかけて、円熟味を増した「PRIDE」、リリース当時のものとはまた違った魅力が味わえているのではないでしょうか?

CHAGE & ASKA、もしくはASKA さんの特徴として、アルバムに惜しげもなく、シングルで出しても大ヒットしそうな楽曲を入れていくところがあります。その証拠に、今までに出たベストアルバムには、シングル以外の楽曲もかなり入っています。これらをもしシングルでリリースしていたら、更にたくさんの記録を打ち立てたのではないか、とも思うのですが、それをしないのが、この人達らしい、とも思っています。そして、この「PRIDE」という曲も、その例に違いません。

僕が若い頃、この「PRIDE」という曲にまつわる、印象深い出来事がありました。今はコロナ禍なのでなかなか難しい状況ですが、大学1年生の頃、友達のアパートの部屋で何人かの人が集まってガヤガヤする、というのはよくありました。その時偶然、初めて会った女の子が(二人きりじゃないですよ 笑)、特にチャゲアスファンというわけでもなかったのですが、

「高校時代に『PRIDE』っていう曲と、『けれど空は青 ~close friend ~』っていう曲を初めて聴いた時、なぜか涙がこぼれて号泣して仕方がなかった」

と言ったのです。これは、僕自身も全く同じような経験をしたことがあったので、本当によく分かることでした。

今回は、この「PRIDE」という曲のどこがすごいのか、どこが素晴らしくて、多くのファンの方々に名曲として親しまれているのか、というところを、あくまで僕自身が思っていることでありますが、メロディとコードの見地から、数カ所のポイントに絞って、書いていきたいと思います。(全ての部分や、歌詞も含めると、それこそ膨大な量になってしまうので 笑)

◎ Aメロのコード進行がありそうでなく美しい

「PRIDE」は、CHAGE and ASKA 時代のオリジナル・キーが Ebメジャー、先日リリースされた ASKAさんのシングルが Dメジャーですが、ここからは、ASKAさんのシングル・バージョンを題材に、Cメジャーに変換して説明していこうと思います。(大体はオリジナルバージョンと同じ動きなのですが、部分部分違う箇所があるので) コードは全て耳コピなので、微妙に違っている箇所があればどうもすみません!

まずは、Aメロから見ていこうと思います。Aメロ前半の8小節の歌詞とコードはこうなります。

  思うように~は~いかないも~んだな~

  C|Em7FDm7

  呟きな~がら 階段を登る~

  G – G/FC/EDm7C – F/C|C – Dm7/G・G ~

とても美しく、自然に聴こえるコード進行で、メロディとの相性も抜群です。そして、使われているコードの一つ一つは、特にテンションノートが入っているなどもなく、比較的シンプルです。

でも、普通の感性、というか慣習的に、このメロディにコード進行をつけると、おそらく前半は、

  C|G/B(or G)AmF

といきたくなるでしょう。実際の演奏は、2小節目に通常ならドミナント・コードを使いたくなる箇所でそれを使わないことによって、オーソドックスでありながらも、ちょっと一味違った楽曲に聴こえます。

そして、後半部分は、分数コードを巧みに利用して、ベースが5度から1度にスムーズに下降していく進行になっています。ここは本当に美しく、まるで賛美歌を思わせるようなコード進行、またメロディになっています。(2番の歌詞もそういうふうになっていますね)

このように、前半は多分こう進むだろうな、というのを巧みに避けつつも自然に聴こえる進行を使い、後半はこう進んだら美しいだろうな、という期待通りに動いています。なのでこの曲は、王道でもあり、また普通とは一味違うぞ、というところを、Aメロ部分から聴き手に期待させているように、僕は感じます。

そして、ここではあまり深く取り上げませんが、なんとこの曲は、Aメロからの歌部分をCメジャー・キーとして考えた場合、イントロがAメジャーで終わっていて(つまりイントロが終わる時点ではAメジャー・キーになっていて)、そこから、Cメジャー・キーのドミナントの分数コードにあたる、G/Bを挟んでCメジャー・キーに転調して、Aメロにつながるのです。こう文章で書くと、本編の歌唱部分とは何の脈略もないイントロみたいですが、これがまた奇跡的な位にピタリとはまっています。ここはまさに、アレンジャーの澤近泰輔先生の腕の見せ所でしょう。(というか普通、イントロでこの展開は思い浮かびません)

◎ サビに、感動させる要素がこれでもかと詰まっている

前述した、大学時代に出会った女の子に「聴いていると自然に涙が溢れて号泣した」と言わしめた要素は、このサビ部分にかなり詰まっている、と僕は考えます。ここは本当に、「え、この曲は普通じゃない、すごい曲だな」と感覚的に思わせてしまうテクニックがたくさん使われています。

サビ前半の4小節の歌詞とコードはこうなります。

  伝えられない事ばかりが~ かなしみの顔で 駆け~ぬけてく ~

  C – F6/AG7(b9,13) – C・G/B|Am – Em7|F – C ~

ここは、メロディのキーが高くなるのも相まって、本当に感極まる部分ですね!

ここで注目すべきは、1小節目の2つ目のコード(F/A)と2小節目の最初のコード(G7(b9,13))、そして、そのコードと歌メロディで使用されている音程との関係です。

まず、コード進行ですが、普通の感覚なら、おそらくこのメロディに対して、

  C – FG7 – C・G/B|Am – Em7|F – C ~

といきたくなるでしょう。これでも、十分に素晴らしい曲だと思います。

しかし、「PRIDE」では、

1小節目の2つ目のコードを、F6/A    ※ 構成音は、ファ・ラ・ド・レ / ラ

2小節目の1つ目のコードを、G7(b9,13)   ※ 構成音は、ソ・シ・レ・ファ・ラb・ミ

としています。F6/Aは、サブドミナントの Fに6度のレを加え、分数コードにしたものですが、通常、サビは王道パターンで攻めたくなるもので、この進行の中で、サブドミナントを F6/Aにするのは、なかなか勇気が入ります。しかし、この Fで来るかと思ったところに F6/Aが来ることによって、この曲がただならぬ曲であることを聴き手は瞬間的に予測します。

この時の歌メロディは、レの音を歌っていますが、これは F6の6度の音になります。つまりメロディも含めて、コードの響きを一層豊かにしているのです。

そして、その次に、G7(b9,13) という、テンションノートが入ったセブンスコードが来るのです。構成音は多いですが、鍵盤で実際に弾く時は、下から「ファ・ラb・シ・ミ / ソ」と弾くことが多いでしょう。(ハ長調で考えた場合)

このG7(b9,13) に入っている、b9のラb の音、というのは、以前 note. での、s.e.i.k.o さんとの対談でもお話ししましたが、チャゲアスやASKAさんの音楽性を形成している要素の一つ、「サブドミナントマイナー」という機能のコードを特徴付ける音でもあるのです! G7(b9,13) は、コードの機能としてはドミナントなのですが、この部分を聴いた人は、サブドミナントマイナーを使用している時と似た感覚、「幸せも悲しみも内包した感覚」に陥ると思います。一番盛り上がる箇所なので、感動もひとしおでしょう。

この時、歌メロディはミの音を歌っており、これはちょうど、G7(b9,13) のテンションの13thの音になるので(13度は6度と同じ音です)、こちらもメロディも含めて、音楽的に響きを豊かにしています。最近気付いたのですが、ASKAさんのメロディは、その時その時のコードに対する6度の音を、とても効果的に使っていることが多いのですね。

コードを一つ一つみるとそのような感じですが、G7(b9,13) というコード自体は、ジャズのスタンダードなどでも非常によく出てくるコードです。しかし、大抵の場合、その前に来るコードは、Dm7 か Dm7(b5)、所謂「ツー・ファイブ・ワン」のツーにあたるコードであり、「ジャズとして心地良い予定調和」の部類に入る使い方です。

しかし「PRIDE」では、Dm7ではなく、Fを発展させたF6/A というコードが使われていて(F6/Aは構成音的には、Dm7/Aと表記することも可能ですが、単純化して3和音にして考えた場合、元は Fの発展系かなと思われます)、そしてそれ以外の部分の進行もメロディも、特にジャジーというより、良質なポップスとしてのアプローチがなされています。だからこそ、余計にこの「F6/A – G7(b9,13)」という進行が、メロディラインとの絡みも相まって、唯一のものとして際立っているのだと思います。

おそらく多くの方は、初めて聴いた時にここで「うわこの曲何すごい」とノックアウトされてしまうでしょうが、それはこのような「通常ならオーソドックスに進む部分で、普通でない、感動を呼ぶテクニック」が瞬間的に連続して使われていることが、大きな要因だと思います。もちろん、メロディ、歌詞、歌唱が素晴らしいのはいうまでもありません。

長くなってきましたので、続きは後半に書こうと思います! (今回の記事は、「PRIDE」の編曲を担当している、澤近泰輔先生が教えてくださった、とても貴重なお話も含めて、書かせていただきました。本当にありがとうございます)

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CHAGE and ASKA の「PRIDE」はなぜ名曲なのか? その1」への5件のフィードバック

  1. 〉ASKAさんのメロディは、その時その時のコードに対する6度の音を、とても効果的に使っている

    やっとこの分析に出会えた〜!

    はじめまして&いきなり失礼いたしました。
    私、関西で鍵盤弾きや講師業やっております、笹 直人というものです。
    中学の時に「SAY YES」でチャゲアスの音楽に出会って魅了され続けているうち、野井さんのページにたどり着き興味深く読ませて頂いておりました。
    音楽に携わる者として、やはりASKAさんの音楽は驚きの連続なのですが、ネットに溢れる多くの分析は、コード「進行」、転調、に関することに終始していて「なんかちゃうな〜」と偉そうに悶々としておりました。

    ある時からASKAさんは和声と旋律の関係の実験を始めたと思うのです。その一つがご指摘されている「ルートの6度上が旋律」だと思うのです。(余談ですがASKAさんにリアルファンレターで聞いたことが尋ねた事があります。お返事はありませんでしたが)

    一度気がつくと思い込みやこじつけもありますが、あれもこれも!と一人で興奮しておりました。
    頻度的にはサブドミナント上で使われる事が多いようです。

    SAYYES、Aメロの「すべてが君と〜」のA♭に対するファ
    はじまりはいつも雨のAメロ「僕は上手に君を〜」のG♭に対するミ♭
    太陽と埃の中で、PRIDE、YAH×3のサビのサブドミ上の旋律の音(というかこの三曲のサビは構造的には同じですね)
    DOYADO、AメロのG、Gmに出てくるミ
    WALK、大サビの「君がほほえみくれると〜」のFに対するレ
    もうすぐだのサビ、という話さのサビ、僕瞳、サムシングゼアのE♭に対するド

    などなど…
    riverのサビはサブドミ上の6度と(構成音的には同じ)Ⅱm7を繊細に使い分けてますね。

    こじつけじみてきますがドミナント上でもトライされている気がします。数は多くないですが。

    WALKサビ手前「あの日の言葉〜」のG(コードはFM7/Gとかなんでしょうが)上のミ
    オンヨアマーク、サビ最後の「僕らと呼び合うため〜」のEに対する♯ド
    など…

    でそのサブドミ、ドミナント上の6度が連続で出てくるのがifの「どんな未来が」の「み」らい「が」の箇所ですかね…

    トニック上ではないかな…と思ってたら「大人じゃなくていい」のサビで思いっきりCメジャーの上でラの音歌ってました。

    興奮のあまり超長文になってしまいました。熱意の表れと思ってお許し下さい。

  2. サムシングゼアはAメロ、Eに対する♯ドでしたね。何度も失礼しました。興奮のあまり推敲するのを忘れてしまいました(笑)

  3. 笹直人さま

    はじめまして、この度はコメントくださり、どうもありがとうございました!

    仰るとおり、ASKAさんは、コードに対する6度の音を、かなり効果的にメロディに使われていまして、それが独特のコード進行と相まって、唯一無二の個性を生み出しているのかなと思います。コードが1度のトニック以外の時で、6度の音を使うのは、自分的には結構勇気がいることが多いので、とても参考になります。実はこのあたりは、澤近先生とのやり取りの中で出てきたお話でしたので、ASKAさんが積極的に意図されてなのか無意識にそういう特徴が出てきたのかは分かりませんが、結構信憑性のあることではないかな、と思われます。

  4. 野井さま、お返事ありがとうございます!
    あれからあれも忘れてた、これも忘れてた(砂時計のくびれた場所のサビ、NO pain NO gainのサビ、サン&ドーターのイントロ…)と思ってました。これについてはちゃんとまとめないと、と思いますし、いわゆるポップスの研究対象によくなる作曲家(ビートルズ、スティービー、ドナルド・フェイゲン、ジョビン等など)と並ぶ存在と思います。

    澤近さんとそんな話になっていたのですね~!
    羨ましい&興味深い。
    ASKAさんがよく鍵盤で曲を作るようになってからアイデアが広がった、仰ってますが、この6度の使い方は誰もがしているわけではないし(コード進行を複雑化するのはありがちな方向)、最初は無意識で気持ちよくて出していたのを、ある時から意識化して取り込んだ…と想像しております。

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