このブログは、一作曲家の個人のブログで、最初は細々と、自分が作曲家になるまでなど、少しずつ書いていたのですが、最も好きなアーティストの一組である、CHAGE & ASKAさんについて、ある時期まで全く書いていなかったことに気付き、年末にその魅力について書いてみたら、予想していた以上の、大きな反響がありました。
なので、そのお礼も兼ねて、ASKAさん作詞作曲の、光GENJIさんに提供した「Please」という楽曲を、女性ボーカルでカバーして、動画配信して聴いていただこうと思っていたのですが、諸事情あり、今回は先送りすることになりました。
その代わりに、今回は、「Please」の、大サビの前半部分に絞ってみて、楽曲的に、どこがどうすごいのか、書いていこうと思います。(作曲面に絞っておりますので、ここでは歌詞の解説はしておりません)
まず、「Please」という曲です、、、
っと、動画を紹介したいのですが、オフィシャルなものが上がっておりません。なので、「光GENJI Please」もしくは、「ASKA Please」で検索して、聴いてみてください! (このあたり、結構規則を守るほうなので、すみません)
僕は、光GENJIさんの楽曲の中で、一番好きなのが、「荒野のメガロポリス」なのですが、そのカップリングとして入っているのが、この「Please」という、珠玉のバラードです。また、光GENJIさんの、「天使のような」歌声が、この曲に、ひじょうにピッタリ合うのです。
そして、この曲の、2コーラス目のサビが終わった直後に来る、大サビ部分の展開が、メロディ、転調、コード進行など、、本当に素晴らしいのです!
ASKAさんといえば、転調の凄さがよく挙げられますが、その特徴は、普通の楽曲なら「あっ今転調したな」と比較的すぐに分かるのですが、「えっ今転調した? してない? やっぱりしてた・・・」と、一瞬分からなくなるような、手法を取ることが多いです。(もちろん、オーソドックスな転調も使っています)
僕も最近まで、「なぜそうなるんだろう」と思っていましたが、どうやら、メロディに使われている構成音に、秘密が隠されているみたいです。
すなわち、転調前のキーで使われているスケールと、転調後のキーで使われているスケールの中に、共通する音がいくつかあります。その音だけを上手く使いながら、メロディを作っていることが多いのです。
今回、紹介する「Please」は、その手法が、とても効果的に、使われています。
「Please」の大サビ部分は、このような歌詞になります!
こわれるほど誰かを
抱きしめつづけたいな
どんな時代がきても
人は愛を 生みつづける
となっています。原曲はヘ長調(Fメジャー)ですが、この曲を、ハ長調(Cメジャー)の曲として考えていきますと、コード進行は、こうなります。(歌詞に合わせて、改行しています)
Ab – Db/Ab
Bb/Ab – Eb/G
G7/F – C/E
Dm7 – Dm7/G
Dm7/G・G7
この曲の、転調なのですが、
1. こわれるほど誰かを :Abメジャー(ここでいきなりCメジャーから転調しています)
2. 抱きしめつづけたいな :Ebメジャー(ここが一番の力技です)
3. どんな時代がきても~ :Cメジャー (元のキーに戻ります)
となります。
サビから1.への転調と、2.から3.への転調は、確かに素晴らしいのですが、聴いていると、比較的すぐに掴めるものです。
この中で、一番混乱する箇所が、1. から2. への転調です。
楽曲全体を、ハ長調とした場合、
1.を、絶対音感で考えてみますと、
「ミb ミb ラb ラb ド ド | ド シb ド シb~」
となり、2.は、
「シbシbシbシbシbシbラb | ソラbシb~」
となります。
この時、1.は、Abメジャー・キーなので、Abメジャー・スケールの構成音は、
「ラb シb ド レb ミb ファ ソ(ラb)」
となり、2.は、Ebメジャー・キーなので、Ebメジャー・スケールの構成音は、
「ミb ファ ソ ラb シb ド レ (ミb)」
となります。そして、Abメジャー・スケールと、Ebメジャー・スケールに、共通する音は、、、
「ラb シb ド ミb ファ ソ」
になります。(つまり、レbとレ以外は、全て共通します)
ここで、「Please」の1.と2.のメロディの音を、見てみてください。Abメジャー・スケールにも、Ebメジャー・スケールにも、入っている音だけで、構成されているでしょう!
これが、一瞬、わけが分からなくなる、しかし聴いていて、すごく違和感なく、スムーズに感じる理由です!
今度は、1.と2.の、コード進行を、解析してみましょう。
1. Ab – Db/Ab
は、Abキーで、
1度メジャー – 4度メジャー / 1度
となります。
Cメジャー・キーにすると C – F/C になり、機能的には、
トニック – サブドミナント / 1度
となります。
次に、
2. Bb/Ab – Eb/G
ですが、Ebキーで、
5度メジャー / 4度 – 1度メジャー / 3度
となります。
Cメジャー・キーにすると G/F – C/E になり、機能的には、
ドミナント/4度 – トニック/3度
となります。
と、、ここまで書いてきて、大変なことに気付きました。
この1.と2.の部分は、実は転調していなくて、ずっと、Abメジャー・キーのままである、とも解釈することができるのです!
2. Bb/Ab – Eb/G
の部分も、Abメジャー・キーと考えた場合は、
2度メジャー / 1度 – 5度メジャー / 7度
となります。
Cメジャー・キーにすると D/C – G/B になり、機能的には、
セカンダリー・ドミナント/1度 – ドミナント/7度
という、解釈になります。
この場合、1.と2.を繋げてみますと、
「C – F/C – D7 – G 」のコード進行の後半を、分数コードにして、「C – F/C – D/C – G/B 」にしている
と、考えることができます。この場合、同じキーで展開していると考えられます。むしろこちらの方が、スムーズなのかな? (2度のセカンダリー・ドミナントのD7を、1度をルート音にした分数コードのD/Cにしてしまう、という発想は、なかなか浮かびません)
つまり、2.の「抱きしめつづけたいな」の部分は、Ebキーに転調しているようにも、1.のAbキーのままで行っているようにも、どちらにとっても、辻褄が合います。
ちなみに、相対音感的には、僕はこの部分は、最初は、
「ッソソソ ソソソファ|ミファソー」
と聴こえていたのですが(つまり転調しているように)、
この文章を書いているうちに
「ッレレレ レレレド|シドレー」
とも(転調していないようにも)、聴こえるようになってきました。一体、どっちなのでしょう?
2.だけで捉えた場合は、コード進行の美しさ、スムーズさで考えれば、転調している、と解釈したいのですが、1.と2.全体で捉えた場合、1つのキーの中で、メロディもコードも展開している、と考えた方が、分かりやすいのかもしれないですね。
いずれにしても、ASKAさんのよく使うコード進行は、このようなケースが、ひじょうによく出てきます。
二つのキーで、メロディの解釈も、コードの解釈も、ちゃんと辻褄が逢うように作られているため、転調しているようにも、転調していないようにも聴こえて、その結果、すぐにコードが取れない、しかし、メロディはとてもスムーズである、ということが、出てくるのです。
そういう楽曲を、アイドルに提供する、というチャレンジ精神が素晴らしく、それをしっかり、自分たちの世界観で表現している、光GENJIさんも素晴らしいと思いました。
大変な状況が続きますが、皆さまそれぞれの立場で、命を守ることを第一に、理解しあって、無理なく、お身体と心を大切にしてください。
!!!