その73 Just 1 Love

2006年のお話)
 
それからしばらく経って、ある大型の案件が来た。かなり押っ取り刀で、次の日の昼までに出さなければいけない。
 
そんなのいくらなんでも用意できない・・・ あれ、でもこの前、投げやりな気持ちで作ったけれど、思いの外カッコよくなった曲・・・ それがぴったりとハマっているように感じた。
 
作曲の仕事の場合、「ぴったり」というのは、100%クライアントの要望通り、というよりも、80%くらいはそれを満たしていて、残りの20%くらいは、そこから逸脱しているけれど、でもそれがハマった時に、素晴らしい可能性を秘めている、そういう曲のことだと思う。そういう意味でも、前に「怒り」にまかせて作った曲は、まさに「ぴったり」だった。
 
とはいえ、最高のものを作ったつもりでも、大抵の場合、形にならないのが、この仕事だ。考えてみれば、曲を書いている人が100人いれば、100人とも「最高のものを作っている」という、自負を持っている。そこで勝つのは一人だけだから、当たり前のことだ。(その時だめでも、別の機会に、その曲が花咲くこともある。)
 
とりあえず、ダメ元でいいから出してみよう。決まれば儲けもの、明日までに出せる人はそんなにいない筈…
 
数日後、別件の仕事で、事務所でミーティングがあった。若い将来あるクリエイターさん達で、ある歌番組の音楽を製作する仕事だった。普段、仕事は一人でしていることが多いので、友達のクリエイターではなく、事務所の同じような立場の人達とお会いする機会は、とても新鮮だった。
 
ミーティングが終わろうか、という時、、スタッフのオカさんが、二回から降りてきて言った。
 
「ノイちゃん、おめでとう! あゆ(浜崎あゆみさん)決まったよ。」
 
え、、、うそ、マジで??

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