その72 「怒り」と「作曲」

2006年のお話)
 
この頃になると、同業者の友達との間で、いろいろ話題になってくるのが、「印税」がどのくらい入ってくるか、である。
 
人によって話はまちまちで、ピンなのかキリなのか、さっぱり分からない。ただひとつ言えるのは、この仕事をずっと続けていくためには、いつもピンを目指しつつ、キリになった時の状態も想定しながら、業務を進めていかなければならない、ということだ。(数ヶ月後分かったが、、幸い「七色」の仕事は、ひじょうに×∞ 恵まれていた。つくづくラッキーだった)
 
陽のあたる仕事も、縁の下の仕事も、どんな仕事も全て尊いのは確かだ。だけど、生きていかなければならないから、当然良い条件の仕事を取っていきたいし、可能性の大きな案件を最優先していきたい、そういう気持ちがかなり強くなっていた。でも、裏方というか、光になるものをサポートするような仕事を、優先しなければならない状況も、たくさん出てくる。そして、人間的に見たら、こういう仕事をしっかりすることは、とても価値があることだ。そこに、ジレンマがあった。
 
このような、いろんな気持ちが交差しながら、不安定な気持ちの中で曲を書いたことがあった。やっとここまで来て、名刺がわりになる曲も書いたのに、まだこんなレベルの思考で戦っていかなければならないのか、という、怒りの混ざった気持ちだった。
 
怒りの気持ちで曲を書く、というのは、僕の場合、結構めずらしいのだが、その時はテンション的に、ちょっと投げやりになっていた。そして、どうせなら普段、絶対に作らないような曲を書いてやろうと思った。
 
サウンドはブルージーなロックで、ギター・リフ主体の、ジミ・ヘンドリックスみたいにしよう。サビは、普段はメロディアスに作ることが多いけれど、8分音符で同じ音程をひたすら並べてやろう…
 
そうして曲を書いて、アレンジをして、仮歌を歌っていただいて、ミックスまでした後、思った。「カッコイイ・・・」
 
そう、思いの外、すごくカッコ良い曲ができてしまったのだ。8分音符で同じ音をひたすら並べたメロディは、それまでの僕の曲にはないような異彩を放っていた。そしてその曲は、当初出そうと思っていた案件とは、ややカラーが違うものになっていた。
 
幸い、その案件用に、あと一曲用意していたので、そちらを出すことにした。この曲はいつかのために、温めておこう。
 
いろいろ不安になることもあるけれど、それはみんな同じこと。そんなものに揺らいだりはしないで、今するべきことに最善を尽くしていこう・・・

 

 

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