その6 カッコ良さ

二年生に上がる前の春休み、部の卒業生が主役のコンサートがあって、卒業予定のベースのAさんから、ジャズファンクバンドの誘いがあった。一緒に演るメンバーは、当時の上手くてカリスマ的な先輩ばかりである。(たかがサークルなのだが、学生をやっている時は、このあたりの上下関係や格というものは、かなり重要だった。)

Aさんは、個性の強い人の多いサークルの中でも、ちょっと異端なイメージで見られていて、見るからに近寄り難く怖そうだったが、実際はすごくシャイで面白い、後輩に親切な優しい先輩だった。HR /HM 路線とは違う、ファンキーでロックな音楽が得意だった。

演奏するのは、渋さ知らズと、シャクシャインの楽曲だ。(シャクシャインは、梅津和時さんのバンドで、既に解散しているが、素晴らしくカッコよかった) 一年生の僕がなぜ抜擢されたかというと、やはりキーボードの中では即興演奏ができたのと、見た目楽しそうに演奏していたからだと思う。曲は、どちらもほぼ一発コードで、所々にキメが入るタイプの曲。有名どころで言えば、ハービー・ハンコックのヘッド・ハンターズの『カメレオン』のようなタイプの曲だ。

その頃、僕はいわゆる「弾ける人」の部類に入っていて、キーボード奏者が少ないこともあり、先輩方から重宝がられていた。自分もそのつもりでいた。相変わらずコードはあまり意識していないし、スケールなどもよく分かっていない。でも、電子オルガン時代に覚えた、テンションの入ったコードの響きと、アドリブという名前の、楽譜に書かれたジャジーな演奏が身に染み付いていて、なんとなく「ジャズっぽい」アドリブも弾けている。自分ではそう思っていた。

すごい先輩方と部室で練習している時、同学年の友達が用事で入ってくると、ちょっと優越感を感じていた。練習は楽しく、ソロパートも多くカッコいいキメもあるので弾き甲斐を感じていた。

そして本番も無事に終了、打ち上げの時に、いろんな先輩から誉めていただいた。

しばらくして、その時の演奏を録音した、カセットテープを、Aさんから渡され、聴いてみた。

ショックなくらい、全く弾けていない、リズムはボロボロだし、ソロもバッキングも自分が自分がで、他の人の演奏を聴いていないし、引き立てようともしていない。

何よりも、弾いているフレーズが全くカッコ良くない。カッコ良い演奏には、音の強弱や間の取り方なども含め、いろんな要因があるのだが、一番感じたのは、自分では分かっていると思っていた、ブルース・フィーリング、ジャズ・フィーリングが、全くフレーズの音並びに感じられなかったことだ。

その時から僕は、感性でやりましたとか、フィーリングですとか、降りてきましたとか、その類の言葉を(真摯な気持ちでなく自分を大きく見せるために発している場合)、自分に対しても人に対しても、ほぼ信用しなくなった。やはり、何事も基本があって、カッコ良く聴こえるための動きや、音の組み合わせ方がある。それらを知らないで(また知るための努力もしないで)、カッコ良い音楽ができるということは、絶対にありえない。よく考えたら、ブルー・ノートもオルタード・スケールもツー・ファイブもテンション・ノートの入れ方も知らない人間が、その手の音楽でカッコ良い演奏をしたとしたら、それは大天才だ。

実は、一発コード or 二発コードの曲というのは、アドリブを取るのがかなり難しい。特にその時演奏した「シャクシャインの戦い(アルバム『大雑把』に収録)」は難しい。この時点で弾けないのは当然だ。

そんなのでも、サークル内ではそれなりに評価をしてもらえる。どういう練習をして、どういう理論を覚えればいいのだろう? 分からないまま、ただただハノンと似非George Winston風アドリブを続けていた。

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