前回、疲れた時に聴くと心が落ち着く、お薦めできるCDアルバムを紹介しましたが、そこで書き切れなかった作品を、今回は紹介していきたいと思います。
○ David Benoit / The Steinway Sessions
デヴィッド・ベノワさんの、2017年にリリースされた、比較的新しい作品です。全てスタインウェイのピアノ一台で演奏された、ソロピアノ曲集で、演奏しているアーティストは、David Benoitただ一人、です。
ベノワさんは、日本では「ビル・エヴァンスの流れを継承している、リリカルで繊細なタッチの、西海岸フュージョンの人」という認識で、評価されていることが多く(確かにそういう一面もありますが)、また、それを象徴するような作品は、1980 ~90年代に集中しているので、あまり日本では、近年出たこのアルバムについて、語られる機会は少ないかもしれません。
しかし、おそらくこのアルバムは、彼の数ある作品の中でも、かなりの名盤に入ると思います。
このアルバムには、19曲入っているのですが、前半の10曲と、ラストの「ライナス・アンド・ルーシー」は、今までにリリースした「Kei’s Song」「Every Step Of The Way」など、自身のオリジナル曲や、「Letter To Evan」「Your Song」など、題材としてよく取り上げる楽曲を中心に構成されていて、いわば「David Benoitの代表曲を、ソロピアノで演奏している、ベスト盤的なアルバム」という要素が全面に出ています。演奏も素晴らしく、昔からのファンや、ビギナーの方なら、おそらく最初の10曲だけでも、大満足な出来栄えになっているはずです。
しかし、後半11~18曲は、それまでとは打って変わって、彼のトレードマークである、ジャズやコンテンポラリー・ジャズ、スタンダード・ミュージックではなく、純然たるクラシックではないですが、それにかなり近いアプローチの楽曲が、ずらっと並んできます。
後半の楽曲はどれも、タイトルの前に「Etudes For The Contemporary Pianist」と付いてくるので、「クラシックの練習曲にあたるものを、現代のピアニストの解釈で、作って演奏した作品」という、位置付けになるのでしょうか? これがまた、前衛的且つキャッチーで、素晴らしいのです。
ベノワさんの凄さというのは、難解なことをやっていても、不自然さが全くなく、キャッチーでスッと耳に入ってくるのに、決して表面的な浅いものではなく、深い感動がある、というところなのですが、そこにもう一つ、「普遍的でありながら、時代の最先端を常に意識している」というところだと思います。このアルバムは、ピアノ一台で演奏されているので、当然、ピアノ以外の楽器の音は入ってきていません。しかし、不思議なことに、ちゃんと「2017年の音」として成立しているのです。
ジャズやフュージョンの人で、名実ともに評価されている、いわゆる「大御所」と呼ばれる人であれば、正直「昔取った杵柄」的な手法で、作品を書いたり、演じたとしても、ファンもそれを望んでいる部分もあるので、十二分に受け入れてもらえると思うのですが(実際にそういうやり方をしている人も結構いると思います)、この人は常に、「今」という時代を意識し、また時代が経過しても色あせない音楽を作り続けているところが、いつも本当に素晴らしいと思います。
大好きなアーティストなので、ここまで音楽的な醍醐味ばかり書いてしまいましたが、もちろん、このアルバムも、起承転結がはっきりした、ドラマチックな曲が多いのにも関わらず、聴いていて、とても心落ち着くアルバムになっています。このアルバムについて、ネットで見る限り、日本人でレビューを書いている人が、ほぼいない気がするのですが、これは、David Benoitの近年の名作といって、間違いないと思います。
僕は、家で食事をする時、iPodを流していることが多いのですが、自分の中で大体大まかな流れがあって、朝食の時はSpotifyでK-POP、昼食は洋楽のスタンダード・ポップス、そして夕食は、J-POP、という流れが多いです。
そして、夕食のJ-POPは、ジャニーズさんやAKBグループ & 坂道グループさん、その他流行りの音楽を聴いているか、あるいは、バラードを中心として、大人のポップスや歌謡曲を聴いていることが多いです。
そのバラードの時に、よく聴くのが、このアルバムです。理屈抜きで癒されます。とにかく、歌唱力が高く、声が良いのです。
海蔵亮太さんは、カラオケ番組などで、賞を総なめにした方で、2018年にメジャー・デビューされて、昨年はレコード大賞の新人賞を受賞した、これから期待大の実力派シンガーです。
最近の歌うま番組は、コンピューターで採点するものが多く、出演される方々はルール上、どうしても「得点を高く出すための歌唱」を優先する傾向がある気がするのですが、そういう制約がないのもあり、このアルバムの海蔵さんは、確実性プラス、水を得た魚のように、可能な限りの表現力を発揮されているように感じます。
実は、他のアーティストの名曲のカバーや、誰かの作った楽曲を歌うのは、シンガー・ソング・ライターの方のように、自分で作った曲を歌うのとはまた違った、ものすごい難しさがあるのです。自分で書いた作品は、どこをどう歌い回せばいいかetc… 自分で作っているので分かっていますが、他の人が書いた作品、というのは、オリジナルのアーティストの意図や、作詞者、作曲者の意図を、自分自身で読み取らなければなりませんし、また、そこに自分のオリジナリティも入れていかなければなりません。
それを、海蔵亮太さんは、とても高いレベルで実現し、そして、持ち歌として、自分のものにされています。キーのレンジがすごく広い曲もあれば、海蔵さんのキーだと、ちょっと低めに設定されているものもあるのに。
ちなみに、このアルバム「Communication」は、全13曲中、後半3曲がオリジナル3曲なのですが、最後の13曲目「春つむぎ」は、僕が作曲 & 編曲、そして、動画などでお世話になっている、平井佑果さんが作詞しております。分厚いコーラスが持ち味の、バラードでありながらグルーヴ感溢れるこの楽曲、興味ありましたら、ぜひぜひ聴いていただけたらと思います。
今回で、全て終わらせたかったのですが、ベノワさんのところで力が入り過ぎたので 笑、後一回、日本の男性ボーカリスト3人のアルバムを、次の機会に紹介していけたら、と思います。(それとは別に近々、あのアルバムについても、書こうと思います)
大変な状況が続きますが、皆様無理なく、くれぐれもお身体と心を大切にしてください。
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