「四つ打ち」というリズムの音楽、ダンス・ミュージック

僕がようやく「プロの作曲家」と言えるようになって3年くらい経過した時、、2010年前後だったのですが、自分の中で、すごく不安に思っていることがありました。

その頃は、有名なアーティストさんにも楽曲提供して、多くの人がタイトルを知っている曲も書けるようになって、音楽を仕事にしていることを、しっかりと認めてもらえるようになっていたのですが、街を歩いていたり、どこかのお店に入った時に流れてくる音楽を聴いたりしている時、「このままじゃまずい・・・」と、いつも思っていました。

俗に「四つ打ち」と言われる、リズムの音楽があります。それは、たとえば4/4拍子の曲だったら、1小節のなかで、全ての拍で、キック(バスドラム)を「ドッドッドッドッ」と鳴らすのですが、実は僕は、この「四つ打ち」というリズムの音楽を作ることに、当時、かなり苦手意識を持っていたのです。

その数年くらい前までのJ-POPは、R&Bを日本人の好みにアレンジしたような音楽が主流で、幸い、この「四つ打ち」の音楽を、何が何でも作らなければならない、という感じではありませんでした。(もちろん、需要はたくさんあることはありました) なので、それにやや甘えて、僕は極力、「四つ打ち」のリズムの曲を作っていませんでした。

しかし、音楽の主流は、少しずつ変わっていきます。巷に流れているポップスは、ほとんどが「四つ打ち」のリズムになって、また、作曲家への発注も、この「四つ打ち」のリズムを要求されることが、どんどん増えてきました。

まずいなと思ったのは、四つ打ちのリズムだけでなく、曲の途中で、曲調がガラッと変わる直前に入ってくる、ドラムの「フィルイン」などもそうでした。これも、生のドラムの延長線上のフレーズではなく、明らかに、打ち込み音楽というか、デジタルミュージックじゃないと成立しないような、そういうフレーズが多くなってきました。これらにしっかり対応していかないと、行き詰まるのは時間の問題、、そう思っていました。

洋楽も、それまでは、R&Bを中心に聴いていたのですが、この時期になると、発注時に提示される「この曲のこういう雰囲気を参考にしてください」という、所謂「リファレンス」が、今まで聴いてきた音楽では、太刀打ちできないタイプのものが増えてきました。ブルースやロック、ジャズのフィーリングを知っているだけでは作れない、むしろ、それらのフィーリングの関係ない部分で、勝負しなければならないような音楽です。当時は「エレクトロ」とか呼ばれることが多かったです。

今までの、「良質なスタンダード・ポップスやクラシックを聴き込んで、ジャズ、ブルース、ロック・フィーリングの出し方をマスターしていれば、ある程度のジャンルには対応できる」という、自分の中で勝手に出来上がっていた、「方程式」のようなものが、通用しなくなってきているのを、感じていました。それでも、周りの人は、「最近出てきた、気鋭の作曲家(年齢的にはそうでもなかったのですが 笑)」として、僕を期待しています。

「なんとか、対策を立てなきゃ。」僕はそう考えた末、ダンス・ミュージックに特化した、都内の音楽スクールに、月に何回か、通うことを決意します。その頃は既に、専門学校の講師などもやっていたりしていましたが、プライドは全くありませんでした。

(つづく)

 

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