作曲家から見た、CHAGE & ASKA その3 〜独自のコード進行、浮遊感のある転調〜

今回は、CHAGE & ASKA さん(以下、C&Aさんと表記させていただきます)の音楽で、特に評価されることの多い、コード進行について、書いていきたいと思います。
 
C&Aさんの楽曲の、コード進行が、なぜ独創的、天才的と言われるのか、なのですが、一般的な難易度の高いコード進行を使っているタイプの名曲、というのは、複雑な部分を削ぎ落としていった場合、骨格は、実はオーソドックスなものだったりすることが、多いです。
 
たとえば、MISIAさんの超名曲「Everything」のサビは、とてもお洒落で、凝ったコード進行ですが、
 
Cメジャー・キーの場合(実際はDbメジャー)
 
You’re every thing  You’re every|thing  あなた|が 想うより つ|よく ~
 
C – G/B |Am7 – Gm7・C7 |FM7 – G7/F | Em7 – Eb/A・A7 ~
 
ここから、飾った部分を削ぎ落とした骨格の部分は、意外とオーソドックスだと思います。
 
C – G/B |Am – C7 |F – G7 | Em – A7 ~
 
(ここでは、あくまでC&Aさんの楽曲の独自の素晴らしさを書いていきたいという趣旨ですので、優劣ではなく、それ以外の名曲の作り方や雰囲気も、僕はとても好きで、皆さん尊敬しています)
 
 
こういうタイプの楽曲は、例えば、トニック、ドミナント、サブドミナントetc…の、基本的な音楽理論や、ポップスの代表的なコード進行をマスターした上で、テンションノートの乗せ方、ツー・ファイブなどのコードの動きやそこで使えるスケール、裏コードの使い方、アッパー・ストラクチャー・トライアード、モードetc… 一通りの音楽理論を覚えて、またそういったテクニックを使った、既存の名曲をたくさん聴いたり、弾いたり、分析したりしていくと、めちゃくちゃ頑張れば、運が良ければなんとか作れるようになると思います。(もちろん、相当な努力が必要です)
 
しかし、C&Aさんの楽曲は、そういう努力をしても、作れない、発想できない箇所が、必ず出てきます。それは、C&Aさんの使っているコード進行というのは、骨格の部分からして、オーソドックスでない動きをしている場合が多いからです。テンションノートを使っているから高度、難解、というのとは、またちょっと違います。理論的に解析しろと言われれば、一応できるのですが、一般的にはそういう発想はしないだろう、という展開が多いです。
 
もちろん、1曲全体が全てそう、というわけではなく、部分的になのですが、その部分的なところが、とても凡人には真似できない動きをしている場合が多いです。(例えば、散々語られている、「SAY YES」のサビ部分のコード進行は、高度ではありますが、一般的にもよく使われる展開です。特殊なのはBメロです。)
 
C&Aさんの使う、独特なコード進行は、たとえばジャズをマスターしました、ソウルをマスターしました、フュージョンをたくさん知っています、というような、ジャンル感によるものではない場合が多いです。今回は、そういうコード進行を、いくつか紹介していきます。(全て、Cメジャー・キー or Aマイナー・キーで表記します)
 
 
◎ 「MOON LIGHT BLUES」のサビ(実際はAbメジャー)
 
Moon Light ゆれて|Last Night Blues あきれ|るほどのうぬ|ぼれ屋さん ~
 
C – B|C|Am – E7/G#|B7/F# – Em7 ~
 
1小節目の、C – B は、まだ分かるのですが、4小節目の B7/F# というのが、かなり突飛なのに、ベースラインの流れのおかげで自然に聴こえます。(分母のF#が、ツーファイブのツーで、分子のB7がファイブになっています)
 
 
◎ 「黄昏を待たずに」のサビ(実際はGbメジャー)
 
せつない|ムードの|中で|~|黄昏|待たずに|I LOVE YOU|(I LOVE YOU)~
 
F#m7b5|B7|Em|Em|A|Am|C/D|D ~
 
これは・・・すごい、すごすぎます! 1・2小節目のコード進行は、Cメジャー・キーのセカンダリー・ドミナントのB7をツー・ファイブにしたものですが、これを、J-POPの楽曲で、サビの最初に持ってくる、という発想が、普通浮かびません。
 
しかも、3・4小節目は、普通は流れ的に、Em|A7と、ツー・ファイブを繰り返して行きたくなるところを、Emを続けることで、このサビのキーが、実はGメジャー(実際はDbメジャー)に転調していることに気付きます。
 
僕は、相対音感があるのですが、相対音感を鍛えている場合、キーが変わった瞬間に、転調後のキーの主音をドに捉えて、通常は聴こえます。ところが、この「黄昏を待たずに」のサビは、最初の2小節は、相対音感的に、
 
「ドドドドー シーラーシーラー」
 
とも聴こえるし、
 
「ファファファファーミーレーミーレー」
 
とも聴こえます。つまり、サビの最初の2小節は、Cメジャー(実際はGbメジャー)にも、Gメジャー(実際はDbメジャー)にも、聴こえるのです。なので、なんとも言えない、浮遊感が出てきますが、不思議なことに、メロディは非常にキャッチーに聴こえます。
 
※ここで、Gメジャー・キーに聴こえる理由が、分かりました。サビのコード進行のみを見てみると、F#m7b5|B7|Em|Em| は、ごく普通に、Eマイナー・キーの、ツー・ファイブ・ワンになっているからです。(Eナチュラル・マイナー・スケールと、Gメジャー・スケールは、同じ音を使って構成されています) サビ前の展開があるので、一瞬、どちらのキーにも取れるようになっています。
 
 
実は、この手法は、僕が一番好きな、もう一組のアーティスト、David Benoitさんの楽曲にも、とてもよく使われていたりします。おそらく、この二組のアーティストの使うコード進行には、何かしらの共通点があるのでしょう。
 
 
◎ 「もうすぐだ」のBメロ(実際はDメジャー)
 
不意に|巻き込まれて|動き|とれないでい|たけど|もうす|ぐだ |~
 
G|Gm|Dm|Bb|F|Am|C|G ~
 
これも凄すぎます。「黄昏を待たずに」に似た手法かもしれません。2小節目に、Gmに行くことで、Fメジャー・キー(実際にはGメジャー・キー)に転調していることを認識させています。
 
しかし、相対音感的には、1小節目のGメジャー・コードの時点で、
 
「ラーラーラー」
 
と、既に転調しているように聴こえてきます。なぜなのでしょう?
 
そして、6小節目のコードが、Amになることで、我に返ったように、元のCメジャー・キー(実際はDメジャー・キー)に戻っていることに気付きます。ここに、「もうすぐだ」という歌詞を入れるところも、にくいですね。
 
しかし、コードを解析しているうちに、なんとなく、C&Aさんの楽曲の、転調の秘密、が分かってきたような気がしてきました。
 
 
◎ 「no no darlin’」のAメロ(実際はEbメジャー)
 
土曜の|夜は|朝まで君|を抱く ~
 
C|FM7|Em7|Em7/A – A7 ~
 
のっけから、すごく攻めまくった歌詞ですが 笑、コード進行は普通じゃないか、Cメジャー・キーの中で、セカンダリー・ドミナントのA7が入っているだけじゃないか、と、一瞬思います。
 
しかし、この曲のメロディなのですが、3小節目の、「あ・サ・ま・デ・き・ミ」の、カタカナ部分が、Cメジャー・キーにない、ド#(実際はミ)の音になっています。
 
おそらく、Cメジャー・キーで、Em7を使う時、ドの音は、アボイドノート(使わない方がいい、もしくは注意して使う音)になっている関係で、そうしたのかもしれません。
 
しかし、この音が、ド#になることによって、コード進行だけみたら、Cメジャー・キー(実際はEbメジャー・キー)のような感じがするのに、メロディは、3小節目から、Aメジャー・キー(実際はCメジャー・キー)になっているように感じ、なんとも言えない、浮遊感が生まれています。(ド#は、Aメジャー・キーの長3度となり、キーを特徴付ける音なので)
 
 
最後に一つ、行きますね!
 
 
◎ 「モーニングムーン」のBメロ(実際はF#マイナー)
 
あの日のさ|よならは|疲れたか|おして|僕の腕|に戻|った
 
Dm – A7|Dm – A7|Dm – A7|Dm – A7|C|BbM7|Am|E7
 
これまで続いた、クールなコード進行、というより、初期から中期チャゲアスの、「ダサかっこいい(最高の褒め言葉です)」コード進行です。特に前半の4小節です。
 
しかし、、これもなぜか、相対音感的には、1小節目が
 
「ラーラシーシーシ」
 
という風にも聴こえる時があります。つまり、Dマイナー・キー(実際はBマイナー・キー)に、転調しているように、一瞬聴こえるのです。
 
おそらく、「Dm – A7」を連続することによって、Dマイナー・キーの、トニック(Dm)とドミナント(A7)に、聴こえるからでしょうか? というか、Bメロ最初の4小節は、転調していると解釈した方がいいのでしょうか? よく分からなくなってきました 笑
 
 
めちゃくちゃ、疲れました。しかし、C&Aさんの、コード進行、転調の秘密が、(数あるうちのほんの)ちょっとだけ分かりました。
 
どちらのキーにも聴こえるように、どこから変わったのか分からないように、転調することによって、浮遊感を出している、そしてそこに、全く違和感のない、キャッチーで深みのあるメロディを乗せている、ということなのかな、と思いました。
 
そして、おまけですが、僕の大好きなもう一組のアーティスト、David Benoitさんも、同じような手法の転調をよく使っている、ということも、発見できました。いや、本当に勉強になりました。
 
次回は、CHAGEさんとASKAさんの個性の違い、相乗効果など、僕の感じたなりに、書いてみたいと思います。(CHAGE & ASKAさんに関しては、あと2回くらい書けたらと思っています)
 

 

 

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