その76 Softly

2006年のお話)
 
ある外国人アーティストの、デビューシングルのカップリング曲が、初めてアレンジ込みのお仕事として、依頼されることになった。とても優しい、J-R&Bバラードだった。
 
最初にプレゼンした時のアレンジが、比較的完成度が高かったので、そこからブラッシュアップしてほしい、というお話だった。
 
(当時は、プレゼン段階で、ほとんどの曲をフルサイズで作っていた。あくまで僕の感覚だが、フルサイズ(or 1ハーフサイズ)で作ったデモの方が、1コーラスのデモより、採用される確率はかなり高くなる。)
 
プログラミング自体は、おおかた大丈夫、ということなのだろうが、そこからのブラッシュアップの仕方が、どのようなところに気をつけて、どの程度まですれば良いのか、これは経験がないと分からない部分だ。音楽制作のフクシ先生の所に伺い(この頃もまだ時々、レクチャーを受けていた)、要点を教えていただいた。
 
それ以上に問題は、実際の現場での手順が、全く分からない、ということ。これが緊張だった。そして、今回の仕事は、かなりガッツリとアーティストさんやスタッフと過ごす機会が多い。社長が大方のディレクションをされるということなので、それをしっかり見て、いろんなことを学んでいこう、と思った。
 
正式な歌録りの前に、この時点で日本語をほとんど話せないアーティストさんのために、何度か事務所スタジオを使って歌の練習の機会があって、そこで僕が手本を歌ったりして(笑) 譜割りを覚えていただいたりした。アーティストさんは、シャイで大人しくて謙虚で、どちらかというと裏方さん的な性格なのかな、と思ったが、とても一生懸命な、頑張り屋だった。(この人は「努力家」でもあったが、言葉の綾として「頑張り屋」という表現が、とても似合っている気がした)
 
最初のうちはややナーバスなところもあったが、少しずつ、現場全体が、とてもアットホームな雰囲気になっていった。休憩中に、「七色の明日」の振り付けのポーズをしてくれたり、昔誰がどんな部活に入っていたりとかの話題になったり・・・  そして、本テイクの歌は、その時できる限りの、最高のものが録れた。
 
製作中、親しい人に今回の仕事のことを話すと、(特に男性の方々には)とても羨ましがられたが、僕的には正直、初めてのことだらけの仕事で、そんなことを考えている余裕は全くなかった。
 
そして、アレンジしたデータの流し込み、、、ベースやピアノ、ギター、ドラムのキックやスネア etc… 各パートを一つ一つ、オーディオデータにしていく。今は大体家でやってしまうが、この時は事務所スタジオで、エンジニアさんも交えての作業だった。これについては初めての経験だったので、事前に何度か、他のクリエイターさんの作業を見学させていただき、本番に臨んだ。ものすごく、集中力を要する、時間のかかる作業だったが、一緒に作業していただいたスタッフさんのアドバイスなども聞きながら、なんとか無事に終えることができた。
 
そして、、この時の仕事でとても嬉しかったのは、仮歌をお願いしている方の書いた歌詞が、、、そのまま採用されることになり、、また、バックコーラスもその方が担当することになったこと。仮歌をお願いする時、いつも目標にしていることだったので、それを実現できたことも、とても達成感を感じていた。
 
そしてミックス、トラックダウン、マスタリング、、、無事に終わって、、後はCDが出るのを楽しみに待っていよう、そう思っていた時、スタッフのヤノさんから、連絡があった。
 
「お疲れ様です。実は、今回の楽曲、リア・ディゾンさんのデビュー・シングルのA面になりました! そして、すごく細かい話なのですが、タイトルの表記を「Softly」にするか、「softly」にするか、迷っているのですが、どちらがいいでしょうか?」

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