その70 学園祭のアイドル

2006年のお話)
 
先生が電話に出た。
 
「あー、ノイくん、ほんとう、お久しぶりー」
 
昔と変わらない声だった。一通りの挨拶をして、僕は言った。
 
「あの、もしかしたら、びっくりするかもしれないのですが、今こんな仕事をしているんです。」
 
僕は、自分の近況、そして今回、有名アーティストに楽曲を提供したことなど、先生に伝えた。
 
「やっぱり、意外だったでしょうか?」
 
「ああ、そうなんかー。 あ、でも、ノイ君、中学の頃から、文化祭とかで、すごく活躍しとったやん? だから、最初聞いた時は、おおっと思ったけれど、そういうの思い出したら、ああ、なるほどなあ、と思った。」
 
「本当ですか!? 僕、昔、すごく地味で、つまらない生徒だったと思うんですが・・・」
 
「ううん、全然。確かに、普段はとても真面目で勉強熱心なところあったけれど、ノイ君はエレクトーンの演奏とかすごくて、文化祭のアイドルやったんよ。職員室の先生方は、いつも文化祭が近づいてきたら、ノイ君のこと楽しみにしとったんよ。」
 
「そうだったんですか、本当によかったです! あの、それと、昔はいろいろ、心遣いしていただき、本当にありがとうございました。」
 
「ううん、全然。あの時はあれくらいしかできなかったけれど。」
 
息が詰まりそうな、バリバリの進学校だったけれど、リカ先生は、僕の本当の姿を、ちゃんと見ていてくださった。そして、今現在の自分についても、大学まで出たのにとか、意外に思うでも興味半分に思うでもなく、、その頃から繋がって今がある、ということを、すぐに理解して、受け入れてくださった。
 
それがとても嬉しかった。それだけでも、連絡した価値があったと思った。
 

 

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