その40 雲行き

2003年当時)
 
「君はひょっとしたら、大化けする可能性があるから・・・」
 
レコード会社の、担当のA&Rはそう言った。初対面からタメ語で、やや横柄な感じのする、ちょいワルな(死語)あんちゃん風な人だった。いつも非通知で電話が来るのがやや不気味だった。(そこの会社の人が皆そういうわけではなく、ほとんどは礼儀正しい人でした。)
 
でも、そう言ってくださったことは嬉しかった。
 
「君が送ってくれた、この曲とこの曲は、最近デビューした、このグループにプレゼンする。これから社内プレゼンをどんどんしていくので、新しいデモができたら随時聴かせてほしい。」
 
視界がパッと開けたようだった。うれしくて、親しい人やお世話になっている人たちに伝えた。みんな喜んでくれた。
 
希望に溢れて新しいデモを作っていき、3曲くらい自信作ができた時点で、また会社にCD-Rを持っていくことになった。
 
A&Rさんの雰囲気が、前回とやや違う。喫茶店に入って、話し始めた。
 
 
「僕らの会社には、君みたいなレベルのデモは、毎日普通に送られてくるんだよね~」
 
言っていることが、前回とは全く違う。
 
「君のデモを聴いていると、『あっこのコ、ダンスミュージック全く知らないなって、すぐに分かるんだよね~』」
 
そこは痛いところを突かれた。僕はクラブは23回行った程度で、毎週、通い詰めて、その空気に入り浸ったり、そういうタイプではない。「多分こうだろうな」と思ってやっていたことは、やはり見破られる。こういう音楽スタイルには、こういうキックやスネアを使って、こういう風に音を重ねてみたいな、基本を覚えたのは、それから数年後だ。(そして、基本はどんどん変わっていくので、絶えず勉強しなければならない)
 
「そして、このCD-Rだけど・・・」
 
と新曲が3曲入ったCD-Rの話に言及し始めた。
 
「せっかく、700MBのを使っているんだから、最後まで新曲でいっぱいにしてから、持ってきてほしいんだよね・・・」
 
700MB全部入ったデモCD-Rは、アルバム一枚作るようなものだ。そんなことしてたら、次に聴いてもらうまで、何ヶ月かかるだろう。。。(小出し小出しにしたデモは、既に全て聴いてもらっていた。)
 
「でも、そんなことしてたら、次はかなり先になってしまいそうですが・・・」
 
「だって、仕方ないじゃん」
 
こんなやり取りだった。
 
あれだけ喜び勇んで曲を作っていたのに、この流れはなんなんだろう。ここでこのルートを辞めるのは早急な気がする、でも、このままじゃ飼い殺し状態になってしまう。僕にはそんなに時間がない。
 
想像だが、このA&Rさんは、確かに僕に可能性を感じて社内プレゼンしてくれたのだろうが、そこで僕の弱い箇所を、音楽の中で重要視しているタイプの人にいろいろ指摘されたのかもしれない。立場的にいろいろあったのだろう。
 
それと多分、会社の中でアーティストにプレゼンしていきたい、というA&Rさんの思惑と、とにかくいろんなコンペに参加していきたい、という僕の思惑が、ややズレていた気がする。どちらも間違いじゃないし、どちらが近道かは分からない。
 
でもその時の僕は、そこまで考える余裕はなかった。とにかく、曲を世に出すためのチャンスがほしい。
 
「あーあ、ここもまた上手くいかないのかなあ。やっぱりダンスミュージックの基本知らないし、分かる人には分かるよな。。。」
 
落胆して、家でそんなことを考えている時、、一本の電話が入った。
 
「えー、スペルラヴァー社のタカシと申します。うちの社長のケンが、あなたの曲を聴きまして、他にも曲を聴かせてほしいと言っているので、宜しければまた送っていただけないでしょうか?」
 
!!!!
 
少数超精鋭のクリエイター集団の事務所から電話が来た。(実はレコード会社から返事が来たのと、ややタイムラグがあった)
 
そして、その電話をくださった方は、なんと今すごくお世話になっている、事務所の社長だった。

(次回) その41 返事が来ない!!

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