その58 二人の女子高生

2005年当時)
 
周りの同じような境遇の人たちが、どんどん大きな仕事を決めていって、なんとなく取り残されているような気がしていた時期、、、忘れられない小さな出来事があった。
 
僕はアルバイトからの帰りで、駅のホームのベンチで、電車を待っていた。
 
女子高生二人が、手を繋いで何か歌いながら歩いて近づいてきた。
 
「舞い上がれ 空高く・・・」
 
それは、ヒビノ君の作った曲だった。その女子高生二人は、僕の隣に座り、他愛もない話をはじめた。
 
 
 
このことは今でも、ドラマの一場面のように鮮明に覚えている。いつか起こり得るシチュエーションだろうな、とは思っていたけれど、実際に起きると結構辛いものだ。
 
と同時に、大きな作品が決まると、こんな風に、作者の知らない場所で、知らない人たちが、自分の曲を口ずさんだり、そういうことがごく普通にあるんだなあ、と実感した。
 
でも、だからといって、クリエイター同士の人間関係が悪くなったり、そういうことは絶対になかった。僕は「自分も早く楽になりたいなあ・・・」とは思ったけれど、「あの人より自分の方が・・・」みたいな感情はあまりなかった。自分の不足を補うことの方がずっと大切だ。
 
当時、mixiというSNSがとても流行っていて、僕もちょっとやっていたけれど、みんな、今までと変わらない付き合いだった。よく考えたら、一つ大きな作品が決まっただけだと、まだまだ不安なものだ。他のクリエイターさん達もそれまでと変わらず、同じように必死だったと思う。
 
そして、周りの人たちがそういう仕事をどんどん決めていくのは、自分にも可能性があるんじゃないかとも、時々思った。と同時に、「自分は何の代表作も出せずに、辞めてしまうのかも」という不安も、とてもあった。
 
実際、、、その頃、キープ状態の曲が、ものすごい勢いで増えていた。そこから先になかなか行かないけれど、この中のどれか一つくらいは、いつか決まるだろう、と思っていた。(キープが増えた裏には、その当時R&Bスタイルに強い、仮歌ボーカリストさん何人かに知り合ったことが、とても大きい。歌の力で、自分の実力以上の評価をしていただいていたと思う。)
 
焦らずに、一つ一つの作品をしっかり作っていこう。そして作品は作った時点で、もう過去のもの、それをどうするか決めるのは他の人。そこに固執せずに、次の作品を作ることに、すぐに気持ちを切り替えていこう。

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