その23 デモテープ

演奏の仕事をしながら、空いた時間で少しずつデモテープを作りつつ、2 , 3曲できるごとに、いろんなオーディションや、作曲家を募集しているレコード会社、音楽事務所に送っていた。しかし、当然のように、何の返事も来ない。

その頃、僕はパソコンを使って音楽を作る、ということがほとんどできなかった。一応、Macのノートブックは持っていて、「Cakewalk Metro」というDAWを入れていた。

しかし、当時の僕にとっては、このMetroは、本当に使い方の分からないソフトで、音を出すための設定だけでも四苦八苦して、やっと音が出るようになっても、操作方法が難しすぎて、、結局、Metro では、1, 2曲しか作らなかった。

主に何の機材で作っていたかというと、Roland のワークステーション・シンセサイザー、XP-80だった。いわゆる、オールインワン・シンセで、76鍵のキーボードでいろんな音が出せて、音作りもできて、打ち込みまでできてしまう、という、当時ではかなり優秀なシンセサイザーだ。

六畳一間の寮のような部屋で、このシンセをラジカセにつないで、ラジカセをスピーカーにして、楽曲を制作していた。そして、良いメロディが浮かんだら、カセットテープに、シンセで弾いたのを直接ラインで録音したり、鼻歌を録音したりしていた。それを元に、メロディ、コード譜を書いて、一つの曲にしていく。曲がある程度形になったら、XP-80のシーケンサーに打ち込む。こういうスタイルだった。メロディは、、歌を入れる時は少なくて(僕はあまり歌が上手ではない)、シンセでそのまま弾いていくことが多かった。

実はこの時、デモテープで送った曲の中に、何曲か、数年後にリリースできた曲があった。

ある程度、曲がリリースされるようになったり、有名なアーティストさんに楽曲を提供できるようになってくると、「やっと自分の良さを世の中が分かってくれた。今までみんな分からなかっただけだ」と、人間どうしても思いがちになる。

でも、今考えたら、分かってもらえなくて当然だ。たとえ同じ曲、メロディでも、「人に聴かせる」ための、テクニックがある。それによって、良い曲を良い曲として人に聴かせられるか、なんかパッとしないものとして人に聴かせてしまうか、大きな違いが出てくる。人が聴いて、「良い曲だね」と言われない時は、自分が未熟なのが原因な場合が多い。

当時の僕は、この「人に聴かせるための技術」が、圧倒的に不足していた。そして、その技術をどうやったら身に付けられるのか、それも分からなかった。

演奏の仕事は少しずつ慣れていって、評価していただけることも多くなってきた。しかし、デモテープは一向に返事がない。なんとなく、惰性で過ごしながらも、「でも自分、頑張ってるな」と思うことで自分自身を納得させる、そういう日々が続いた。

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