その20 「夢を買う」人たち

オールディーズバンドの仕事を始めた頃、もう一つ、音楽関係の仕事を、時々していた。

小さなインディーズ音楽事務所の所属アーティストに、楽曲を提供する、という仕事だ。つまり、作曲家としての仕事だ。

あるボーカリストさんが、そこの事務所のオーディションに受かり、でもライブをやったり、メジャーにプレゼンするためには、オリジナルが必要、ということになった。そこで曲を作れる人を募集していたので、僕が応募した。

それが縁で、この事務所につながり、他のアーティストさんにも、ライブをやったり、CDに収録するための曲も書いてほしい、との話が来た。

どんな場所であれ、どんな状況であれ、まず動かなければ何も始まらない、と思っていたので、僕はその仕事をやってみることにした。

「アーティストさん達に一度会って、どういう曲が合うか話を聞いてあげてほしい」と言われ、いかにも作曲家の先生のような佇まいで、ミーティングしたこともあった。

しかし、この事務所、、すごく不思議な場所だった。僕が最初に応募したボーカリストさんは、声が綺麗で歌もとても上手かった。しかし、それ以外のほとんどの方は、どう考えても、アーティストとしては、特に際立ったものがない。歌の上手い下手というより、ダイヤモンドの原石のように磨けば光る、「キラリ」の「キ」がないのだ。(人ではなく、あくまで、アーティストとしてみた話です)

「でも、事務所のオーディションに合格する位だし、定期的にライブをやって、メジャー・レコード会社の人も見に来て、時々声がかかったりしている人もいるから、何かしら見るべき所はあるんだろうなあ・・・」

僕はそう思おうとした。しかし、アーティストさん達だけでなく、出来上がっているCDやデモのクオリティも、「絶対これ売る気ないだろう」と思うものばかりだった。

しばらくの間、そこから依頼があると楽曲提供して、でもあまりにも、自分の想像していた「作曲家」というものとは違うし、目指しているものに到達できる雰囲気がなかったので、ある事務所から初めてデモテープが受かった時を機に、そこから離れることにした。

後から分かった話だが、そこは所謂、悪徳オーディションをすることで知られている事務所だった。

メジャー・デビューしたいけれど、ちょっと難しいかも、と判断した人を、故意にオーディションに合格させて、レッスン料を取ってレッスンを受けさせる。ライブにはメジャーの関係社も確かに来るが、本当に「来る」だけだ。そして、数十万という金額で、自費でCDを制作させる。メジャー・レーベルに売り込むための資料作り、という名目で。

僕は作り手側だったので、被害には合わなかったけれど(もちろん社員ではなかった)、ここに入ってしまった人は、人生の大事な何年間をこの場所に費やして、本当に気の毒だったと思う。今は、個人でも比較的クオリティの高いデモを作れる時代なので、この手の事務所は減っているのでは、と思う。

「彼らは『夢を買っている』のさ」

と、なんともカッコ良いセリフを、そこの元スタッフだった人から、後から聞いたけれど、、この事務所のやっていることは、全然カッコ良くなかった。

音楽業界は怪しい人も随分たくさんいるのだが、経験上、なんとなく見分け方が分かる。その一つが、「実年齢よりも、極端に老けて見える人」だ。大人っぽいとか、ちょっと老け顔だね、とか、そういうレベルではなく、「30代なのに50代くらいに見える人」だ。もちろん皆が皆そうではないと思うけれど、実際に怪しかった人は、なぜかそういう特徴があった。

今、J-POPのコンペティションで、四苦八苦しているクリエイターの方も多いけれど、当時の僕よりは、ずっと可能性のある場所にいると思う。

 
 

しかし、、、その事務所には、たまに、本当に「ダイヤモンドの原石」みたいな人がいた。数年後、その人に、素敵な協力をしていただくことになる。

 

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