その17 ライブハウス新宿21世紀

それから紆余曲折を経て、、、僕は作曲家を目指していた。
 
俗に言う、「夢を諦めきれずに」とかではなく、「何が何でもこれをしなければだめだ」という状況になっていた。
 
そんな時、都内にある、老舗のジャズ & オールディーズ・バーの、バックバンドでキーボードを弾く仕事をすることになった。初めての音楽の仕事だった。
 
この仕事を紹介してくれた方が、元々このお店でキーボードを弾いていて、諸事情あって元の仕事に戻られることになった。後釜として、僕を推薦してくださったのだ。
 
最初に見学に行った時、あまりにも想像を超えたもので、カルチャー・ショックを受けた。僕は元々、スタンダード・ポップスやジャズは好きだったが、オールディーズは、有名なのをほんのちょっと耳にしたことがある、という程度だった。そのほんのちょっとしか知らないオールディーズが、目の前で次々と演奏されていく。時にはスーツ姿のお客さんが、お店の若い女のコと一緒になって踊り出す。お客さんが参加する、生バンドをバックにした、カラオケタイムまである。そのうち、マドンナのような衣装の女性シンガーさんが、踊りながら歌い始めた。
 
居酒屋とかではない、所謂お酒を飲む大人のお店にも、僕はろくに行ったことがなかったので、それだけでもかなり場違いな気がしたのだが、このお店の演っている音楽とバンド演奏は衝撃だった。
 
バックバンドの人達は、次から次へと、ほぼ即興で、メロディとコードの書いた譜面を見ながら、時にはその場でシンガーさんのキーに瞬時に移調させながら、当たり前のように高い水準で弾いていく。それも、かなり長い時間、ぶっ通しで弾く。見ているうちに緊張してきて、何度もトイレに行った。演奏どころの話ではなく「もし自分がやった場合、トイレ我慢できるだろうか」そんなことも考えていた。
 
数日後に、仕事をやるか断るか、返事をしなければならなくなった。当時の自分に向いているかというと、間違いなく向いていない。おそらく、お店の人もそう思っていた。
 
「そして、やるの、どうすんの?」
 
京都訛りのあるバンドマスターのヤマモトさんが、電話越しに尋ねた。ここで断ったら、多分、ずっと挑戦しないままになりそうな気がした。
 
「やります」
 
僕が言うと、数秒間、空白ができた。おそらく、ジョン・ケージの「4分33秒」以上に意味を含んだ数秒間だった。ヤマモトさんが言った。
 
「きついで・・・」
 
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