メロディが先か、歌詞が先か? 曲先作曲と詞先作曲

歌ものの作曲には、大きく分けると2通りの方法があります。

一つは、「曲先」といって、先にメロディとコード進行を作って、そのメロディに歌詞を乗せていく方法。

もう一つは、「詞先」といって、先に歌詞が用意されていて、その歌詞にメロディを付けていく方法です。

昔は、多くの作詞家・作曲家の方々が「先生」と呼ばれていたような頃は、「詞先」の方が主流だったみたいですが、今の音楽業界では、おそらく9割、いや9割5分以上が「曲先」で作られているような気がします。僕も大抵の場合、メロディとコード進行から曲を作っていきます。(ここから先は、「メロディ」としか書いていない時「コード進行を含む」ケースもあると、文脈から判断していただければと思います)

いろんな方のお話を聞いていると、なんとなく「詞先」で作曲するのが、あまり得意でない人が多いような気がしますが、、実は僕は、詞先作曲は、結構得意な方だと思っています。得意というか、苦手意識があまりありません。

歌詞が先に用意されている場合(この場合は、作詞家さんやアーティストさんが作ることもあれば、自分が作ることもあります)のメロディの付け方ですが、文章のフレーズ毎に、キリの良さそうな箇所で、分けて考えていきます。

たとえば、今適当に思い付きましたが、

「君だけを 抱きしめたい」

という歌詞がある場合は、区切りの良い場所で、「君だけを」と「抱きしめたい」の、2つのフレーズに分けられそうです。

この場合「君だけを」と「抱きしめたい」に、どういうメロディを付けていくかという話になりますが、ここで役立ってくるのが、過去の記事で僕が書きました、「モチーフ(1 or 2小節単位のフレーズ)」の概念を意識することです。

「君だけを」は5文字で「抱きしめたい」は6文字です。1字違いですし「抱きしめたい」の「たい」は、なんとなく、1つの音符にハマりそうな雰囲気を持っていたりしますね。(歌詞とメロディは、双方が意味や響きを生かしたりリズム感を生かしたり、相性がとても重要です)

なので、「君だけを」と「抱きしめたい」に、同じモチーフを使いながら、メロディを展開していっても構いませんし、「君だけを」をモチーフA、「抱きしめたい」をモチーフBとして、展開していくことも可能です。

こういう風にして、なるべく同じモチーフを使いながら(もしくは別個のモチーフを組み合わせながらも、全体的に同じメロディが反復されることを意識しながら)、メロディを作っていけば、歌詞が先にある場合も、ちゃんと耳に残るメロディを付けられる可能性が高くなる、と思います。

もちろん、歌詞が先ですから、一かたまりの文字数が、かなり変わってくることもあるのですが、そういう時も、音符数は多少違っていても、聴いた感じが似たような印象を持つ、起伏やリズムを持ったメロディの動きを、意識しながらメロディを作っていけば、モチーフを反復する効果は十分に使えます。もちろん、そこは別のモチーフを使うことも可能です。一番大事なのは、モチーフそのものがもつ「魅力」ですから。

僕は「どうやったら良いメロディが書けるのか」と人に質問された時は、本当に口酸っぱく「基本はモチーフです」と答えるのですが、これは大抵の人は、知らず知らずのうちに感覚的にできていたりします。

でも、感覚的にできているのと、「意識して」できているのでは、実際にできたメロディの印象は、全く変わると思います。もちろん「意識して」作った方が、耳に残ります。「意識して」できるようになった人が、初めて感覚的に使いこなせるようになるのです。ものすごく簡単な原理だからこそ、意識する必要がある、と僕は思います。

じゃあ、「全部詞先で作ってしまえば、メロディができた時に歌詞もセットでできているから、効率的にもそちらの方がいいじゃないか?」と思うかもしれませんが、曲先には曲先のメリットがあります。たとえば、何かの拍子に、歌詞はないけれど、ものすごく良いフレーズが思い浮かぶことがあります。こういうフレーズを、作曲に使わない手はありません。

また、曲先の場合、詞先で作曲するよりも、歌詞の制約がない分、コード進行や、起承転結の展開の妙を作りやすい、というメリットがあります。作詞が苦手な作曲家も、歌詞は後から作詞のエキスパート(つまり作詞家さん)にお願いする、ということを前提として作っていけば、文字の制約のない分、斬新なメロディを作ることができるのです。

また、特にコアなダンスミュージックなど、どちらかというと、曲の構成が「幾何学的」な楽曲は、メロディから作っていった方が、まとまりが良くなりそうです。今のポップスは、多かれ少なかれ、ダンスミュージックの要素をかなり含んでいるので、それもあって、曲先作曲の割合が非常に高くなっているのかなと思います。

しかし、、実は「歌詞が先にあって、音符数に制約が出る」ケースだからこそ、今までにないようなメロディ、展開が浮かぶ、ということも、かなりよくあるのです。だから、本当に良い曲を作るための方法は、ケース・バイ・ケースで、これが正解、というのはあってないのかもしれません。正解はないけれど、基本や大まかな傾向はある、というところでしょうか?

楽曲の完成形で、歌詞を特に際立たせたものにしたい場合は、やはり歌詞が先に用意されている、詞先作曲の方がいいような気もするのですが(僕が作詞する時は、ほぼ詞先です)、でも、一流のプロの作詞家さんやシンガー・ソングライターさんは、メロディが先にある場合でも、ちゃんと心に残る、共感できる歌詞を、メロディに付けていくことができます。これはもう、本当に「餅は餅屋」という言葉を痛感します。

結論として、作曲する際、歌詞が先か、メロディが先かは、双方にメリットがあって、結果的に良い作品になればどちらでも良い、しかし、どんなケースでも言えることは「作曲はモチーフが基本」という概念をしっかり持つことじゃないかなと、僕は思っています。

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