その38 赤い波形

2003年)
 
トワさんが歌い出すと、MOTU Digital Performerの画面上に、歌が赤い波形となって現れた。
 
「うわー、すごい。パソコンに歌が録り込まれている!」
 
すごかったのは、赤い波形だけではなかった。その「音質」だ。今までの、MD MTRや、デジタルMTRで録音した時の歌データとは、全く雲泥の差だった。マイクはそれほど高価ではない、あり合わせのダイナミックマイクだったけれど、それでも声の細かい成分が、全て聴こえてくるような感覚だった。しかし、一番すごかったのは、トワさんの声の良さと歌唱力だ。
 
実はその少し前に、トワさんは悪徳オーディション事務所を無事に辞めることになって、僕や元スタッフで今事務所を辞めている人達で、こじんまりとお祝い会をやっていた。その二次会でカラオケに行って、そこで「MISIA  /  眠れぬ夜は君のせい」を聴いたのだが、それが鳥肌が立つ歌だった。例えるなら、YUKIさんがMISIAさんのアプローチで歌ったような、素晴らしい歌唱だった。
 
なので、ある程度は予想していたのだが、実際に自分のオリジナル曲にその声が入った時の感動は、未だに鮮明に覚えている。トワさんの声は、とにかく倍音に溢れていた。やり方を知らなかったこともあり、その時の歌のピッチはほぼ直さなかった。
 
その日録音したのは、フルサイズのオリジナル曲2曲だったが(当時、僕の中では仮歌を録るといえばフルサイズだった、本来はそうだと思う)、どちらもm-floさんのようなスタイルの楽曲だった。当時、クリエイターを目指している人たちの多くは、J-POPだったら、m-floさんやBoAさん、浜崎あゆみさん、バラード系なら中島美嘉さんの楽曲のようなアレンジができるようになりたい、そこを目標にしている人が多かったように思う。もちろん、その先のオリジナリティが大切なのだが、取っ掛かりはそこである人が多かった。
 
特に問題なく、無事に歌録りが終わった。遠藤先生も満足されていた。僕は確信した。
 
「これから、、今までとは全く違う、すごいデモがどんどん完成していく・・・」

(次回) その39 複数会社からリアクションが来た!

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