その49 本人のプリプロ音源

2004年当時)
 
コンペティションにひたすら参加しているうち、、やっと曲がキープ(曲が採用される可能性がある、ということで、クライアント預りの状態)になった。
 
タイアップは、映画のEDだった。この時のコンペは、詞先といって、先に歌詞が決まっていて、それにメロディを付けていくタイプだ。今の音楽業界は、ほとんどが曲先(メロディに歌詞を付ける)なのだが、僕は実は、この詞先作曲は結構得意である。
 
バラード曲だったので、歌とピアノというシンプルな構成で作った。で、歌は僕 笑。なので、ちょっと驚いた。
 
よく、楽曲コンペは、「デモ段階で、アレンジが完璧でなければ決まらない」と言われるし、僕も結構そう思っているのだけれど、、、これも案件と、望まれている曲調と、アイデア次第だと思う。
 
確かにEDM調のアッパーなものが望まれている時に、メロディとコードだけが分かるようなデモを送ると、おそらく良い結果は来ないと思う。しかし、歌とピアノ、歌とギターみたいなシンプルなデモでも、完成形が想像できるようにちゃんと作っていれば、キープにもなるし、採用されることもある。(但し「ちゃんと作っているものに限る」だ。)
 
 
それで、少々微調整をしてほしい、ということで、クライアントさんの会社に打ち合わせに行くことになった。ディレクターはワリタさん、メロディやコード、歌詞といった、曲の骨格部分に、かなりのこだわりを持った方だ。
 
 
 
ワリタさんにお会いしていろいろお話を聞いた後、、実際に歌う予定の、アーティスト本人の歌が入ったデモを聴かせていただいた。いわゆる、プリプロ音源だ。
 
プロのアーティスト本人が、自分の曲を、自分の作ったオケで歌っているのを聴いたのは、これが初めてだった。かなり上手な方だったので、「これがプロの歌なのか・・・」と、感動したことを覚えている。
 
ただ、その方は女性だったのだが、僕がプリプロ用に送ったオケは、僕のキーに合わせて作ったピアノ演奏を、女性キーにただトランスポーズしただけだったので、コードの重ね方や、オケ全体の高さ的に、ちょっと違和感も感じてしまった。(今なら、時間のある限り、コードのボイシングを変えたり、ベースラインを変えたり、ピアノのアルペジオのパターンを変えたりするのだが、その時はそこまでの余裕がなかった。)
 
 
プリプロを聴きながら、
 
「ああ、これやっぱり、女性キーにあったピアノに変えた方が良かったですよね~」
 
と僕が言った時、ワリタさんは、
 
「いや、、そんなところを気にしているようでは、ダメなんですよ」
 
と仰ったのを、すごく覚えている。まずは、曲の「骨格」が大事、なのだ。
 
 
キープになったからと言っても、他にもキープになっている強力な楽曲が、複数あるわけだから、そこから簡単に採用されるわけではないのだが、、、こういうことの積み重ねが、とても自信になっていき、また積み重ねていくことで、業界の方に名前も覚えてもらい、少しずつ採用率も増えていく。
 
そして、決めるための工夫を、どんどんしていくことが大切だ。全部、「自分の音楽性と合わなかったからだ。自分の音楽の良さがわからなかったからだ」で済ませてしまうのは、少々危険な気がする。確かに、そういう時もなくはないが、実際は(自分の場合は)実力不足、創意工夫が足りない時がほとんどだ。
 
最初のうちは、結果につながらないのが続くと気持ちが辛くなることもあるが、まさに「急がば回れ」の世界だと思う。
 

(前回) その48 クリエイターの友達

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