その47 ボーカルディレクション & 信頼関係

2004年当時)
 
 
トワさんが地元に戻って、、、しばらく僕が自分のデモを歌う日々が続いた・・・
 
ところで、、、仮歌を録る時に、大事になってくるのが、「ボーカルディレクション」だ。
 
仮歌を歌っていただくボーカリストさん、というのは、基本的に、ひじょうに歌唱力が高い。しかし、だからと言って、「好きなように、自由に歌ってください」と、全て相手にお任せしてしまうと、自分の意図したものと、全く違う歌になってしまう。
 
これは他の作業も同じで、例えば、アレンジまで担当して、データを納品して、エンジニアさんにミックスをしていただく際、「自由にやってください」というスタンスでいると、自分の想像したものと違う仕上がりになることが多い。(それはそれで面白い結果になる場合もあるのだが)
 
だから、相手にデータを渡す時は、例えラフミックスであっても、知識が完全でなくても、「相手にどういう意図でこの曲を作っているのか」を分かるようにして、渡した方が賢明だ。結構疲れる作業だが、その方が間違いが少なくなる。
 
自分がエキスパートでない部分は、自分より技術、知識ともに、優れた人に頼んだ方が良い。しかし、「自分の曲を(音楽的に)知っている」ということに関しては、作曲者より優れている人はいない。だから、ディレクションをして、少しでも良い方向に曲を導いていく、という作業が、とても大切になってくる。(人に届ける段階で意図しなければならない部分は、ディレクターさんなどのアイデアがすごく大切になってくる場合も勿論ある) 
 
仮歌だが、たとえば、「きみの」という歌詞の付いたフレーズがある場合、
 
「きっみーのっ」と自分がイメージしていても、
 
「きーみーのー」と歌い手さんがイメージしている時がある。
 
こういう時は歌い方一つで、全く違う曲になってしまうので、そこを作曲家のイメージに導いていく必要がある。(仮歌さんのアイデアを優先することも勿論ある)
 
また、上行するフレーズの場合、しゃくり上げるのか、最初の発音タイミングで正確な音程にピッタリとはめるように歌うのか、ロングトーンの場合、ビブラートさせるのかノンビブラートでいくのか、スパッと切るのか、ピアノみたいに減衰させて切るのか、高いキーの部分は地声でいくのか、ミックスボイスでいくのか、完全に裏声でいくのか etc… 歌を録りながら、瞬時に判断してアドバイスしていく。そして、流れのある、スムーズな歌にしていくのだ。
 
家で録音する時は、その場でディレクションできるが、ネットで歌データをやり取りする場合もある。そんな時は、リファレンス(その曲と同じ方向性の、参考になりそうな既成の曲)を送ったり、シンセメロを送る時も、たとえば同じ四分音符でも、midiデータの音の長さを調整して、抑揚がでるようにしたりする。また、そこそこ自分でも歌えるタイプの作曲家さんなら「仮仮歌(仮歌さんが譜割が分かるようにするための歌)」を用意する人もいる。
 
ちなみに僕は、(よほど譜割がややこしい箇所を除けば)シンセメロ派だ。人は、無意識に真似をしたり影響を受けるものなので、僕の歌の影響は受けてほしくないから 笑 というかそこまで自分で歌えたら、仮歌はお願いしないと思う。
 
 
あとは、「信頼関係」だ。はっきり言って、見ず知らずの作曲家の家まで来て、仮歌を歌ってくださるボーカリストさんは、ある意味チャレンジャーだ。きっと最初は緊張するはず。そこまでしてくれるわけだから、少しでも安心してリラックスして、楽しい気持ちで歌えるようにしたいと(どこまでできているか分からないが)心がけている。不思議なもので、同じ歌唱力の歌が入っていても、信頼関係のある歌なのか、事務的な歌なのかによって、結果が変わることも多い。その鍵を握るのはもちろん、曲を作っている自分自身だ。
 
一度、あるボーカリストさんに初めて歌いに来ていただいた時、すごく雰囲気が良い歌だが、Aメロがどうしてもしっくりこないことがあった。低音が続く、とてもシリアスな部分だった。
 
その方は、音符がそれほど読めない方だったので、僕は
 
「たとえば長年付き合っているけど、最近微妙なカップルがいて、女性の方が『ねえ、大事な話があるんだけれど・・・』と言って、男性に話を切り出すイメージで歌ってみたらどうかな?」
 

 

と、普段絶対言わないような、アドバイスをしたことがあった。結果、、、一発OKのテイクが出た。終わったら二人で大爆笑してしまった。

(前回) その46 ありがとう

___

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。必須項目には印がついています *