その30 ハードディスクレコーディング

(2002年当時)

「どうやったら、巷に流れているCDのような音になるんだろう。それができない限り、ずっと何も変わらない、先に進めないな。技術を知りたいけれど、どうしたらいい?」

そんなことを考えながら、何気なしに、音楽の仕事の募集、応募などを載せている、或るHPページを見ていたところ、一つの投稿が目にとまった。

「現役バリバリのクリエイターが、これくらいの値段で、マンツーマンで、コンピューターを使った音楽制作全般を教えます。」

すぐに詳細を問い合わせた。本当にJ-POPの現役バリバリの若いクリエイターさんで、値段は驚くほど低価格で、普通に専門学校で数年間学ぶのと同じレベルのことを教えてくれる。しかも場合によっては、うちまで出向いてくれるらしい!?

そんな夢のような話があるのか? とりあえず面接に行ってみよう。

都内の、高級でお洒落なマンションの一室が、その方のスタジオ兼住居だった。気前の良いあんちゃん風な、一見軽そうだけど、根はすごく音楽に対してストイックそうな方だった。

「いや〜、あの募集かけたら、短時間でものすごい応募が来てしまって、さすがに一人で教えられないから、すぐに締め切ったんだけれど、あなたが一番最初に応募してくれたんですよ。」

かなりラッキーだった。これからは、大きなスタジオに機材をいっぱい並べて、という時代ではなく、パソコンをメインに、スリムな形態で仕事をしていく時代だ、ということらしい。一人で完結していける人が生き残っていく、そのためにはパソコンをメインにした、ハードディスクレコーディングを覚えていく必要がある。。

最初に僕のデモを聴いていただいた。すぐに、

「カッコいいじゃないですか!? ミックスのバランスも良い! 後は・・・ どうやって今の時代にフィックスしていくか、だね。」

と言ってくださった。

それまでは、業界の人に曲を聴かせると

「きれいだけれど、爆発力がない。何か足りないね」

という意見が返ってくることが多かった。僕自身の聴かせる技術が足りず、未熟だったからで、その改善策は、アドバイスくれる人も分からない領域だった。

しかし、美しいメロディ、曲を作ろうとすればするほどそう言われ、逆にそこまでじゃないなと、自分の中で感じている人が、「パワーがあってキャッチーでいい。爆発力がある」というように高く評価されるのを、目の当たりにすることがとても多く、「結局のところ、内面を見ているようで、表面を見ているんだな」と、内心ちょっと納得いかない時があった。

でもそのクリエイターさんは、ちゃんと僕の曲を聴いて、粗いデモなのに、良い所をすぐに見抜いてくださった。そして、どうやったら曲がもっと印象良く聴こえるのか、ヒントを教えてくれそうな、そういう気がした。

その後、作業場を見せていただき、

「今、こんな曲を作っているんですよ!」

と、製作中の曲を聴かせてくれた。R&Bテイストな、時代の最先端の曲で、まさにCDで聴くような音質、アレンジだった。Macのディプレイには、midi(打ち込み)のトラックだけでなく、それまで見たこともない、オーディオの波形がペタペタと貼り付けられていた。こんな音楽制作の仕方があるのか・・・

その日は、とりあえず、そろえた方が良い機材を教えてくれた。思ったより、今自分で持っているものも、そのまま利用できそうだ。

帰り、黄色いフェアレディZに乗せていただき、駅まで送ってくださる中で、聞いてみた。

「僕でも、近い将来、こんな風にできるでしょうか?」

「今までやり方を知らなかっただけで、必要なものを揃えて、必要なことを覚えれば、全然できますよ。がんばりましょう!」

心は決まった。まずは自分の作る曲が変われば、周りは確実に変わる。運に頼る率を減らしていこう。

 

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