その13 耳コピー

ジャズを習うことによって、フレーズがすぐに劇的にジャズっぽくなる、ということは、僕はなかった。しかし、いろんな概念を知ることによって、以前よりも少しだけ確信を持って、ピアノを弾けるようになった。(フレーズ自体が明らかに変わったのが、それから10年ほど経過してからなので、かなり遅い)

それとは別の部分で、すごく変化があった。

以前よりも格段に、聴いた音が取れるようになったことだ。おそらく、テンション・ノートを覚えたことと、コードの重要性をちゃんと意識して、弾けるようになったからだと思う。

なので、ジャズに限らず、お気に入りのソロピアノの曲を、CDを聴きながら耳コピーして、一人で弾く、ということができるようになった。

バンドを始めた時、正直「鍵盤って、一人だけで弾けてやっと一人前だな。その上で人と合わせるのが理想だな」と思いながらやっていたので、ピアノ一台でなんとか形になるようになったのが嬉しかった。

耳コピーのコツは、

1. 主メロを取る。
2. ルート音を取る。
3. 主メロに付いているハーモニーを取る
4. ルート音よりも高い、コードを成している音(アルペジオetc)を取る。
5. その他、気付いた音を取る。

という順序でやっていくと良い気がした。(主メロとルート音はほぼ同時かもしれない)

そして大事なのは、ただ単に音を取るだけでなく、必ずコードを表記しておくことだ。そうすると、ただ単に楽譜に書いたこと通りに弾くのではなく、音楽的に今何をやっているのか、確信しながら弾けるようになる。

その当時の楽譜を今見てみると、何かの暗号のようで、僕にしか分からないものも多いが、でも意外と正確に音が取れていたりする。音を取る段階で、必然的に演奏の練習もすることになる。

デヴィッド・ベノワ、チック・コリア、ライル・メイズetc… 好きなソロピアノ曲をいろいろ耳コピーしたが、 意外とというか、かなり難しいと思ったのが、デイヴ・グルーシンの曲だ。一見音数が少ないのだが、どうやって音を重ねているのか、分からないことが多かった。必要最低限の音数で、最大限の音楽を作れる、素晴らしいアーティストだと思う。先生はグルーシンのことを高く評価していた。

その先生には、「David Benoitは、あまりジャズを学ぶには参考にならない」というようなことも言われ、他のプロの方にも言われたことがあって、やっぱり俗に言う「こんなのはジャズじゃない 笑」的なことかなと、その時は思ったのだが(当時は夏の海岸をドライブする時にピッタリな音楽、という、良くも悪くも先入観を持っている人も多かった)、実際そういう面もあったかもしれないけれど、今になって何を言わんとしていたのか、ちょっと分かる。

Benoitさんのジャズは、どちらかというと、ここぞという時に「ジャズ言語」を使うジャズで、極端な話、メジャー・スケールとブルー・ノート・スケールしか使っていなくても、ジャズとして成立させてしまえるタイプのアーティストだ。(実はこれは、ポップスの歌ものを作曲する上では、素晴らしいアドバンテージになる部分だ) ライブによっては、ほぼ「ジャズ言語」で演奏している時もあるので、おそらく自分のアーティスト・カラーを確立する際に、そういうスタイルになっていったのだと思う。

もしジャズ初心者の自分が、Benoitさんのインプロヴィゼーションを中心にコピーした時、ここぞというところの「ジャズ言語」のフレーズまで行き着かない可能性もひじょうに高い。それだったら、ビル・エヴェンスだったり、ウィントン・ケリーだったり、「ジャズ言語」を基本にアドリブを組み立てている人の演奏の方が、ずっと効率的で参考になる、そういうことだったのだろうと、今では思える。

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